真夜中のカップラーメン

無頼 チャイ

身体に悪いものが食べたい

 身体に悪いものが食べたい。ちょっとした背徳感を得たい。

 欲望を叶えてくれるのは、真夜中のカップラーメン。

 初春特有の暖かい風も冷める真夜中。僕はパーカーのフードを深く被って、お通夜の様に静かな町を粛々と歩く。電柱のおかげで真っ暗とはいかないが、住宅から光が消えてるために、まるで電池の切れた玩具のような切なさを感じる。

 せっかくだからと、近くのコンビニには寄らず、駅近くのコンビニに向かった。


 人とはほとんどすれ違わないが、すれ違う時、昼には感じない新鮮さを覚えた。それは人の波から友達一人を見つけた時に似ているが、エレベーターで居合わせた人との距離感よりも遠く感じられる。

 そして何より、真夜中というのは意外にもうるさい。4分33秒という曲を知ってるだろうか。ジョン・ケージという作曲家が作った曲で、無音のオーケストラとして知られてる。

 靴底の擦れる音。自販機の稼働音。車の走る音。

 無限に続く真夜中のコンサートは、夜空の観客が帰るまで奏でられるのだろう。


「らっしゃい」


 覇気の無い挨拶に迎えられ、ようやくコンビニに着く。買う物は決まってるために迷わず棚からカップラーメンを一つ握る。

 セルフレジで金を払う。放おった小銭がぐるぐる回った末吸い込まれる。ちょっとした渦潮だな。


「うずしお……」


 追加でポテチを買い、バッグに詰める。カップラーメンの包装を破り、蓋を開けて店内にあるポットのお湯を注いだ。

 コンビニを出て、駅に向かった。着いた頃にはカップラーメンが出来上がっていて、渡されていた割り箸を割って麺をつまんだ。


「……美味い」


「……よっ!」


 声を掛けられたと思った。声のした方を見ると、大の字で磨かれた石のタイルの上で倒れてる男がいた。


「っぅ〜!」


 男は立ち上がると、近くにあったスケボーを拾い上げ、短い階段を上るとスケボーに乗り込む。

 真っ直ぐ行ったと思ったら、急回転して手すりに突進する。


「よっ!」


 板の腹部分で滑り、綺麗に着地した。


「おぉー」


「ん?」


 スケボー男がこっちに気付きじっと見る。

 視線にどう答えればいいか分からなかった。しかし、緊張によってか満腹感に気付き、答えをバッグから引っ張り出した。


「ポテチ、一緒に食べません?」


 チューニングが間に合わなかった声は酷く、胃を締め付けた。


「……え? 良いの?」


「はい」


 パーティー開きしたポテチ。銀色の皿となった袋の上で、お互いにポテチをつまんだ。


「そっか、この時間ってスケボーとかダンスの練習場所になるんだ」


「真夜中ってさ、人目も少ないし場所選び放題だから練習するのに向いてるんだよ。特に道路とか、スケボーで走ってるとき楽しいぜ。俺の道って感じで!」


「何だよそれ、ははっ」


 深夜に散歩した出来事。語るには平凡過ぎるかも知れない。うたた寝に見る夢よりは質素かも知れない。

 けれどしかし、真夜中には魅力がある。


 お腹が空いた夜に、散歩してみるのはどうかな? 身体に悪い食べ物をおすすめするよ。

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