02、三十二回目のお見合い

 今日の仕事が終わって、方既明はまた元気になった。でも、自分のことより自分のことを心配してくれる人は必ずいる。

「方ちゃん!お疲れ様、おいで、秋菊姉さんからいい話があるよ」

 方既明は大丈夫だよ、平気だよ、蘇おじいさんとのおしゃべりが嬉しいから、と言いたかった。

 だが、おせっかいな閔秋菊の熱意には勝てない。

「今、うちのある親戚に……方ちゃんのことを話したら、うちの遠い親戚がいて、あんたと同じくらいの年齢で、特に性格のいい子がいるんです。あんたの仕事を知っても気にしていないよ。セッティングしてみたらどう」

 閔秋菊の言葉を聞いた後、方既明は最初、秋菊さん、僕のことを誰かに話したの?と思った。

 次に、どうしてこんなに早く三十二回目が来るの?と思った。

 とはいえ、ご厚意は無下にできない。家でゆっくり休みたいと思ったが、方既明は次の休みに彼女の遠い親戚と会うことを承諾した。


 約束の日が来ると、方既明はまた正装で、約束の場所に早くも席に座った。

ルーさん、こんにちは、僕は秋菊さんから紹介された、方既明です。三十歳です」と、まるでステージでスピーチの準備をする出場者のように、会った時に言おうとしていた台詞を延々と呟いていた。

 約束の時間が迫ってくると、彼の緊張が増した。

『先にトイレにいっておこう……』立ち上がろうとしたその時、真っ赤な人影が彼に向かって歩いてきた。

 赤いワンピースを着た、おそらく三十歳にも満たない女性で、繊細なメイクがその華やかな顔立ちを引き立てていた。

 思わず見入ってしまうほどの美人だ。

 赤いワンピースの美人は自分の向かいの席まで歩いてきて、座った。

「……盧さんですよね?」方既明が探るように尋ねた。目の前にいる人が、当初想像していたのとはまったく違っていたことに、少し驚いた。

 ここに来る前、閔秋菊はその遠い親戚についてざっくり話していた。

 外見が普通で、性格が良いということで、自分にはお似合いだったそうです。

 このスペックでも「普通」と言えるのか? 方既明は、閔秋菊の美人の基準が本当に高いと感じていた。

 自分の声に反応して、赤い衣装の美人は笑顔でうなずいた。

 美人が微笑む姿は、さらにチャーミングに見えた。

 とにかく、せっかくもう来てくれたから、トイレに行かずに早くお話しよう、と。

 方既明は非常に緊張し、まだ心の準備ができていないと感じた。

 とにかく、暗記した台詞から始めよう!「盧さん、こんにちは。僕は……」

「方既明さんですよね?」その時、眼前の女性が自分の紹介を遮った。少し身を乗り出して、悪戯っぽい笑顔で「あなたが誰なのか、そして今日ここに来た目的もわかっています」と言った。

「え、あ、はい……わかりました」方既明は少し狼狽えた。

 今までの経験上、次はお互いの趣味を聞かなければならない……。

 しかし、そんなことを気にするまでもなく、女性は会話の主導権を完全に握っていた。

「方さんは、結婚がご希望ですよね?」

「は……はい」そうでなければ、お見合いに来る必要はない。

「私は、どうですか?」

 一瞬の沈黙の後、方既明は真剣にこう答えた。「盧さんはとても綺麗です!」

「では、私と結婚なんてどうですか?」

 えっ……えええええ!?

 方既明が聞き間違いかと思ったその時、女性は再び尋ねた。「なんだ……結婚したくないのですか? まさか、単なる遊びのつもり?」

「もちろん、そんなことはありません!」方既明は慌てて否定した。

 彼は真面目だった。

 方既明は彼女が何を確認したいかは理解したように思えた。だいたい、こういうお見合いに来る人は、結婚を前提に来るはずだろう?盧さんは、結婚が本気かを確かめようとしていたのだ。

「将来、本当に盧さんと結婚したいです……」もし、二人が本当に相思相愛であることが確信できたらの話ではあるが。

「はい、それなら決まりですね」

 はっ……はい?

 二人で何を決めたんだ?

 方既明はさっぱり理解が追い付いていないが、女性は決心しているようだ。

「結婚の約束をしたんですよ」美しい彼女は方既明を見て、「後で約束を反故にしないでくださいね!」と意味深な笑みを浮かべた。

 待って……僕たちはまだいつくかの大事なことについて話し合ってないかな?しどろもどろになった方既明は、必死になって何か言おうとしたが、その前に突然、めまいに見舞われた……。

 我に返ると、向かいの赤いワンピースの女性はもう居なかった。

『トイレに行ったのかな?』 その時、電話が鳴った。

 秋菊さんからの電話だった。おそらく、お見合い相手のことを聞くためだろう。

「もしもし、秋菊さん……」方既明は考えるまもなく電話に出た。

「方ちゃん、今レストラン?」 電話の向こうで、秋菊さんの声が少し焦っているように聞こえた。

「はい、着きました」

「そうなの……さっき盧ちゃんから連絡があってね。今日は家に急な用事があって、行けなくなったって……」

「……え?」方既明と呆然としながら声を出した。

 家に急用ができて、来なくなった……だったら、テーブルを挟んで話していたのは誰だったんだ?

 相手との通話を終えた後、方既明は自分の頭が混乱しているのを感じた。

 赤いワンピースの女性が席に着いた後、自分は彼女の苗字を確認しました。そして、彼女は自分が誰なのか、今日はお見合いで来ていることも知っていた。

 ……まさか、今日このレストランでお見合いに来ている盧さんが本当にもう一人いて、もう一人の「方既明」に用があるのだろうか?

 方既明は、彼女が戻ってくるのを待って、状況を確認するしかないと考えたのだ。

 しかし、方既明はずっとそこに座っていたが、誰も来なかった。

 ずっと一人で待っていても埒が明かない。方既明は、女性スタッフに聞きに行った。

「すみません、お店で赤いワンピースを着た女性を見かけませんでしたか。さっき、トイレに行ったかもしれません」

 それを聞いて、スタッフは「今日はそんな格好のお客さんを見かけていませんが」と奇異な目で見ていた。そして、「今、トイレには誰もいませんです」

「……わかりました。ありがとうございます」自分が置いて行かれたかな。

 相手がいなくなったので、方既明は呆然とレストランを後にした。

 ……一体あれは何だったんだ?神様は自分があまりに哀れな存在だから、このような展開を用意したのだろうか?

 もしそうだとしたら、それは本当に……。

「いい話じゃないか」と方既明は感嘆した。

 そんな美人が彼と結婚したいと言ったのだから……冗談だとしても、価値はある。

 方既明が帰った直後、レストランで二人のスタッフが店内でひそひそ話を始めた……

「ねえ、見た? あの男……変わってるよね」

「そうだよ。向かいの席に誰もいないのに独り言を言っていた……怖くて近寄れなかった」

「赤いワンピースを着た女性を見かけませんでしたか……とも聞かれ、なんか不気味だったよ」


 お見合いは早く終わり、方既明は嬉しそうに帰宅して、その出来事はすぐに忘れてしまった。

 現在、方既明は一人暮らしで、とても静かに安心して暮らしている。

 相手がいたほうがいいと思うことはあっても……結婚しなくても、休みの日に友達と集まればいいのだが、その一歩が踏み出せないのだ。

 一人のときのほうが一番落ち着くし、現状に満足している。

「そう言えば……先の女性は、ちょっと見覚えがあるような。どこかで会ったかな?」ふと、そんな思いが頭をよぎったが、すぐに抑えた。

 何しろ、内向的な性格からして、生きている人間をあまり見たことがなかったのだ。

 テレビに出ていた有名人に似ていただけかもと、彼はそう思った。

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