第二章

第一話 神話

「さて、まずは『神話』と呼ばれる、星の成り立ちからお教えしましょう」


 セイと一対一で授業を開いてもらうことになった。

 ことの発端は朝食時。



 1ヶ月も過ごすと、慣れが生じるんだなと感慨深かった。

 最初は、あとで食費を巻き上げられたくないから、夕飯を食べたくないとごねてたり。何も要求しないから食べてと言われ、食べたら美味しくて暖かくて涙が止まらなくなったり。その涙が肌から離れた瞬間、宝石に変わったり。なんというか、これが夢に見た『暖かい家族』というものなのだろうかと、初日で絆されてしまったのだ。

 セイが涙にびっくりしたのか、それからずっと甲斐甲斐しくお世話をしてくれる。1ヶ月経った今も続いていて、心配性なのかと疑問に思ったり。

 他にも、今までとの生活の違いは感じていたんだけど、一気に思い出すと心がぎゅうっと苦しくなるから追々……。


 【愛し子のSNS】と書いてあるボタンのようなインターフェース? がメニューを開くと出てくるのだけど、これを使うには勇気が必要だった。

 そもそも、一度この世界で寝ないとメニューが開けないだとか、メニューの項目にも解放条件が色々あるとか、話すことはあるんだけど一番話したいのはSNSについて。

 地球にあったものを使ったことがないから比較の仕様がないんだけど、限られた人しか入れないのが【愛し子のSNS】らしい。

 その名にある通り、『愛し子』の称号が付いた者しか閲覧できないらしく、見れるのは今現在私含めて6人いる。シャチ族のライト、ハイエルフ族の柊、吸血鬼族のルミ、天使族のさくら、小悪魔族のかえで。

 SNSに詳しいさくらとかえでに使い方を教えてもらって、だいぶ快適にやり取りすることができるようになった。

 『ありがとう』とか『確かに』みたいなスタンプを押すと、相手との意思確認も楽になって、わざわざ文章を書く必要がないというのが、気楽に使えて楽しいのだ。


 いつも通り、セイとおはようの挨拶をして、みんなで集まってご飯を食べる部屋に行って、カイさんとリンさんにも挨拶をする。

 私の朝ごはんはリンさんとセイが作ってくれるから、その間に【愛し子のSNS】で情報収集なり情報交換なりするのだ。

 そこで出た話題が、運営からのお知らせを見たかという話だった。

 一読はしたと答えれば、クエスト内容の詳しい中身を考察しようという流れになった。


 皆考えることが好きで、よく自分たちの保護者について語り合ったものだ。

 柊はお爺さんが保護者らしいんだけど、姿を若い見た目にすることができて、よくその姿で過ごしているそうだ。考えていることを感知する力が凄いらしく、答えをポンポン教えてくれるそうだ。知識人のもとに転生して良かったと言っていた。

 ルミは若いお兄さんが保護者らしく、よく女装をしてから仕事場へ出かけるらしい。言葉を発することは少ないらしいんだけど、見つめる目とか触る手が優しくて擽ったいそう。引きこもりには嬉しい干渉度だと言っていた。

 さくらとかえでは聖霊様という存在が保護者らしくて、精霊みたいな見た目だそうだ。あまり教えてもらうことはなく、住人に教えてもらえと案外放任主義みたい。私たちの中で、現在唯一喋れる種族だから、皆から少し羨ましがられている。

 ライトは父母という保護者はいるけれど、真の保護者は兄らしい。忙しいはずの時間を縫って会いに来るものだから、周りの人が振り回されていて大変らしい。自分の知っている兄とは違って気遣いができるから、そこはありがたいと言っていた。

 こんな風に、自分の保護者がどんな感じの人でどう思っていそうか、外野がわいわい言う和やかなSNSでとても心地良い。


 話を戻すけど、そこで『女神』と『神』が誰のことを指すのか考察していたら、ご飯を運んできたセイに読まれたのだ。

「ご飯ができましたよ、スイ。……女神について知りたいなら教えましょうか?」って。

 びっくりしたよ。読めるのは私たちだけと思っていたから。

「まずはご飯を食べて、それから話し合いましょう」と言われて従ったのが先程までのこと。



「安心してください、スイ。その緑色の板は誰にでも見えますが、中の文字が読めるのは『愛し子』の称号を持った者のみです。そのことについても話したいのでまずは、理解するために必要な知識から教えます。少しずつ様子を見ながら話すので、情報量に頭が追いつけなくなったら窓の外の景色を見てください」


 ちなみにここは、2階の書斎のような場所だ。本棚が両端に置いてあってその間に、黒板のようなものがある。

 そこに書きながら話していくようだ。


「さて、まずは『神話』と呼ばれる、星の成り立ちからお教えしましょう」


 黒板に背中と耳に羽根が生えた人型の女性と、地球のような丸い惑星を書いた。


「この女性は女神だと思ってください。あまり精密に書けませんでしたが……。そしてこの丸いものは、今私たちが住んでいる星です」


 長い長い話になります。と前置きをした上で話し始めた。


「ある日女神は神としての任務を果たすため、星を探しに出かけました。女神に課せられた任務の詳細はわかりかねますが、それを叶えることができそうな星がここ、【女神の理想郷】です。


 女神がこの星を自分の物にしたときには、すでに他の『生物』がいました。それは『野生』と呼ばれる、神の祝福を持たない、自然界で生きてきた生物でした。

 その生物たちは女神の登場に驚きましたが、服従することを受け入れ、女神の祝福を手に入れました。そして野生から、『生命』である『種族』へ進化したのです。

 その種族の名は『人』。二足歩行で歩き、村や街といった社会文明を築いていた者たちです。

 彼らは女神が登場したあとも、平和に暮らしていました。女神や自然に感謝し、環境を汚すことなく、順調に文明を成長させていきました。

 しかし、あるときから、人は考えを変えました。女神が実は悪い神で、本来の、本当の神は、悪い神である女神に殺されたのだと。そして女神討伐のため、人を集め寝床を襲いました。

 女神は嘆き悲しみました。どうして私が悪い神と認識されたのかわからない。この星の本来の神など、とうにいなくなったはずなのに、と。そして話し合おうと歩み寄ろうとした矢先に、翼を貫かれました。

 神の世界では、翼を傷つける行為は禁忌とされています。女神は禁忌を犯した人に、天罰を与えました。

 空から無数の巨大な雷が落ち、その星にいた生命はすべて野生となりました。


 生命のいなくなった星を見て、女神は考えました。最初から生命である種族を私の手から作り、我が子とし、長き寿命にすれば裏切られることはないはずだと。そして時を掛けて作った種族は5つ。空を無限に飛び、強力な魔術を扱える龍。海を優雅に泳ぎ、強力な幻術を扱えるシャチ。森を壊さず生き、細かな魔法を扱えるハイエルフ。夜に活動し、血を体内に取り込むことができる吸血鬼。すべての現象の源であり、神に等しい存在の聖霊。

 女神は彼らに加護を与え、命じました。【世界を発展させ、豊かにせよ】と。

 その命に従い、彼らは国を建てます。王になるにふさわしい種族としての敬称も込め、彼ら5種族を『五大王種族』と呼称します。


 ここまでが『神話』と呼ばれる物語です。わからない点はありましたか?」


 本当にゆっくりと話してくれて、私が理解できたと思ってから続きを話してくれた。


 要点を纏めると、

 ・この星は【女神の理想郷】と呼ばれている。

 ・大昔は『人』が『野生』の『生物』だったのが、女神の祝福で『種族』の『生命』に進化した。

 つまりは女神の祝福が、野生と呼ぶ低位な生物を、種族と呼ぶ高位な生命にさせると。

 詳しいことはわからないけど、高低の認識はこういうことなのだろう。

 ・人は禁忌を犯して、祝福を取り上げられ、野生に逆戻りになった。

 ・女神は我が子である、五大王種族を創った。

 ここまでが神話であると。


 要点も纏め終わったので、大丈夫とジェスチャーをする。

 1ヶ月も経てば、体もだいぶ上手く動かせるようになるのだ。


「良かったです。ここで躓くと後が大変ですから。……ちなみにまだ説明は続きます。この後は普通なら龍国史へと続くのですが、情報量が多く、前提知識よりも膨大なものなので、簡単な各国史をお教えします」

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