追放されて魔王に引き取られましたがルームメイトは緑に輝くゴキちゃんでした。
彩亜也
ここまでのあらすじ!……あらすじ?
パトリシアは一度死んだ記憶がある以外は、どこにでもいる普通の貴族の子女だった。婚約者は同じ家格の伯爵様で、それなりに仲が良く順風満帆。社交界で目立ったことは一度もない、浮いた事も一度もない、とにかく平凡な存在だった。
「やあパトリシア、今日も君に会いにきたよ。君の好きなパティスリーのお菓子もある」
「あら、ありがとう伯爵様」
「パトリシア、今度お茶会を開くの。ぜひいらしてね」
「ええ、ぜひお邪魔させていただくわね」
「ああパトリシア、私達の可愛い子。今日はどんな一日を過ごしたのかしら?」
「今日は伯爵様が訪ねてきたわ。それからお茶会のお誘いもいただいたの」
そんな彼女の評価が一変したのは聖女ラケールが一般に姿を表すようになってからだった。
「こんにちは、パトリシアさん」
「あ……あ……貴方のような人が気安く話しかけないでくださいまし」
彼女を前にすると、思うように体が動かず、思うように言葉を発せられなくなった。その代わり、ラケールを侮辱するような言葉を吐いたり、ラケールを傷つけるような行動をとってしまう。
「違うの、お願い話を聞いて!私の意思じゃないの‼︎」
「黙れ!聖女に対する数々の悪行、決して許されるものでは無い‼︎この国を出て行きなさい!」
そんな自分が嫌で、茶会や夜会への参加を減らしたり、ラケールと接触しないよう交友関係も改めた。だと言うのに、なぜか行く先々に現れてはパトリシアを悪者にするものだから、とうとう王家から国外追放を言い渡されてしまった。
「君は変わってしまったね。それともその醜い本性を隠していたのかい?」
「待ってください伯爵様、これは違うのです……」
「パトリシア?誰かしら?どなたか存じませんけど、友人だなんて名乗らないでくださる?」
「お願い話を聞いて、誤解なの……」
「どうして……私の何がいけなかったの?私はどこで間違えてしまったの?」
「お母様、お母様は悪くありません。お願いですから、私の話を聞いてください……!」
「もう顔も見たく無い。私たちには娘はいなかったんだ。お前はどこへでも行くがいい」
「そんな、お父様‼︎……」
その頃には、友人も婚約者も、親でさえパトリシアを庇うものは無く、パトリシア自身でさえ、もう自分はこの世に要らない存在なのだと思うようになっていた。
——自分がここにくるまでの経緯を、なぜ私は緑色に輝くアレに話しているのだろうか。
二人きりのじめじめとした地下牢で私は熱を奪われぬようにと自分の身体を抱いていた。
アレを直視しないようにと絶妙に視線を逸らし視界の端で見る。そんな私をよそに、アレは嫌がらせのように視界の中を縦横無尽に駆け回っているが。
しかもアレときたら自分から聞いてきた癖に、既に興味を失っているではないか。でも、誰かにこの謎の現象について打ち明けられた事は私にとって幾分心にゆとりを与えた。たとえ相手がどんなに気持ち悪いアレでも。
アレはくるりと振り返ると目を丸くする私を見て口を開いた。
「それさ、甘えじゃない?」
そんな心無い言葉にも、もう傷つくことさえ疲れてしまった。
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