歩道橋
eggy
目覚めると、いつもの首筋の肌寒さがなかった。三月初めにしては気温高めの朝らしい。
気ままな無職の70代を迎えた独り者だが、起床だけは規則正しく朝7時少し前だ。
洗顔を済ませて戻ると、テレビのローカルニュースに見覚えのある画像が映し出されていた。
この自宅から一キロほどの大きな通りだ。縁にまだ雪を乗せた錆の隠せない歩道橋が、見間違えようもない。
つい昨夜も寝つかれず、深夜の散歩をして通ったところだ。
アナウンスによると、まだ人通りの少ない早朝、その歩道橋から車道へコンクリートブロックが投げ落とされた。急ブレーキをかけたワゴン車が辛うじて避けたらしい。
愉快犯とも思われるが、少し離れた目撃者は、歩道橋の上に人の姿は見かけなかったという。
警察の調べでも、解け始めた床の雪上にも新しい足跡は見つからないということだ。
ふうむ、と私は唸った。
老朽化して利用者がほとんどいない歩道橋のはずだ。歩行者はたいてい、百メートルほど先の横断歩道を使っている。
昨夜散歩したときも近くを通ったが、上り下りする人影は見なかったと思う。
綺麗な月夜で、階段の上までよく見えていた。
と考えて、思い出した。
その月の見事さに、現場近くでスマホを出して撮影したのだった。
取り出して、画像を繰る。
深夜だが、鮮やかに月は映っていた。
その下――思わず私は目を凝らしていた。
歩道橋の上、向い側近くの手摺りに、物が乗っている。
半分以上外にはみ出した、コンクリートブロックではないか。
なるほど、と了得する。
深夜のうちにはみ出した格好でブロックを置いたのだろう。夜間はまだ冷え込んでいるので、凍結してそこに固定される。
それが、以前から予報されていたこの朝の高温で解け、落下したと思われる。
複数枚撮った写真を進めると、向かいの歩道に笑みを浮かべてそれを見上げる若者の姿があった。
私はスマホで、110番をタップした。
歩道橋 eggy @shkei
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