KAGUYA

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未知の道は既知にあり

 夜。一人で歩くには丁度良い時間。都会ならいざ知らず田舎辺りでは夜十時を越えればそこまでの喧騒はなく、むしろ静かな自然こそが全面に出てきて虫や木々、草花の音がメインで聞こえてくる。


 そして時代錯誤な感想を抱かせる。

「山の向こうはどんな世界があるのか」


 山に囲まれた昔の武将は海に憧れを抱いたように僕も同じような感想を抱いた。


 今であれば地図アプリなんかで山の向こうを見れば何があるのか把握も出来るだろう。


 しかし何と無くそれは無粋な気がしてそんな感想を抱きながらも疑問に対しての答えは不透明に留めた。気にはなるが何と無く検索迄すると今抱いていているノスタルジーな感覚が消え去るように思えたからだ。


 山の向こうは何かがあってそちらから見れば僕がいる。そんな未知染みた何かが身近にある事を楽しみたい。既知が多いこの世で未知を身近に感じるのは何て事のない少しの疑問を解消しないと言う怠惰であるのが皮肉めいているが今は何と無くそれでも良いと思える。


 夜風が肌をなぜ、上を見れば微かに光る星が散りばめられ月が輝き暗すぎる夜を彩る。道を良く見通させない暗がりが見通せない未来のようで目を細めて歩く自分が冒険家のように見えて少し胸を張れた。


 田舎暮らしの若者としてはコンビニへのちょっとした買い物にこんな感想を抱くのは誇大誇張のように感じるが、僕としてはそれは的をいた答えのように感じてこんな風景もあるのだなと素直に思えた。


 二十歳を過ぎ、大学三年に至った僕。

 一丁前にタバコを吸いながら感じた感想がそれだった。


 タバコ事態は親父の真似で吸えるかなっと言う好奇心から始めたそれは僕の味覚に良く合っていて煙の味覚はどこかコーヒーのように苦くそれでいて大人と子供の線引きを越えた感覚を覚えて気持ちが良い。


「ふう」

 吐いた煙は知識によれば副流煙。体に悪く周りの人をガンにするから良くないと言われているがそれでもと吸う父の気持ちがこれを吸っていると良く分かった。


 気分を落ち着かせたいからだろう。

 一人寒空に出て目に入る光景をただ感じながらちっぽけな自分が広大な世界を感じる一時。

 これ程何かから外れた生活のとある一時は他に見ない。


『何と無く吸いたくなるんだよ。タバコの一服ってのはなかなか良いぞ』


 そんなことを言っていた父は家の二階で寝ているだろう親父。外でタバコを吸う僕とでも意見は一致しているはずだ。


「っていうか、家の鍵出しとけよ……」

 そんなこんなで脚色して見たが言ってみればなんてことなく家を閉め出された僕はただコンビニに行って帰ってみれば鍵をされ閉め出された玄関前でただただ立ち尽くしているだけの現状。黄昏、おかしな方向に思考を回している痛い奴こそ僕だった。


「はあ、まあいいか」

 なんだかんだでなにも言わずにコンビニへ深夜帯に出掛けた自分の落ち度でもしかしたらの準備も怠った自分が悪い。


 それに……。

「月が綺麗に見える。そんな夜にタバコを吸って時間を潰せる。なかなかない経験だ」


 朝になれば大学に何時間もかけて電車に揺られ、ついたらついたで忙しげに教室を回りあれだこれだと宿題を出されこなす日々。


 空など見る暇もなくぼうっとすることもあまりない。少し思えば貴重な時間に思える。


「……夜の散歩も悪くはない、か」

 あまり行かない町並みを徘徊してみるのも手だろう。親の車で決まった場所に決まった経路で移動し、知った気になっている生まれ育ったこの町を見て回るのも意外と良いかもしれないなとそんなことを思った。


「なら、そうだな。ちょいと行ってますか」

 そう言って歩き出した僕は朝になるまで夜の町を楽しんだ。帰った頃にはすでに日が登り両親に迷惑をかけだが良い夜の散歩が出来てご満悦に大学に向かった。


 電車に揺られながらふと天井を見ればそこも確かな未知があって可笑しくなった。


 見ているようで見ていない周りの事。

 それを教えてくれた昨日の夜。

 僕にとっては未知を既知とする輝夜の日。


 規定の道を外れるのも悪くないと思える。一日の始まりはいつも通りの登校から始まった。

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