冒険者イノウエ

宇二井 つくいす

第0話

 早朝でもなく、昼前とも言えない中途半端な時間。雨具を持っていくべきか悩む微妙な天気。


 俺は所属パーティのまとめ役から呼び出しを受けていた。遅刻しないよう、体感早めに家を出た。


 予定より10分ほど早く着いた。傘がぽつぽつ雨に当たる。


 ほんの少し、嫌な考えが頭をよぎった。近頃職を失う冒険者が増えてるらしいが、まあ俺は多分大丈夫だろう。数分経つとまとめ役がやってきた。


「やあやあイノウエくん悪いね雨の中」

「大丈夫ですよ、それで何の用です?」

 まとめ役は少し顔を曇らせた。そして口を開く。


「……イノウエくん、今日限りでクビだ」


 空気が変わる。ポツポツ雨が冷たく感じる。一刀両断、言葉のナイフなんてものではない、言葉のギロチン。

「は?」


 正直受け止めきれない。少なくともクビになる程大失敗をしていない。

「……クビと言ったのだ」


「いや聞こえてはいますが、突然すぎませんか? どうして?」

 ある程度パーティには貢献しているつもりだ、とても納得ができない。



「……その ……金欠なんだ」

「ん?」

 空気が変わった。今度は別の方向に。


「いや、だからその、冒険者パーティとしては足りないんだ、金が」

 まとめ役は申し訳なさそうに答える。


「……えっと、俺が使えないからとか無能だからとか足手まといとかではなくて?」


「……一応お前は優秀だぞ、出来ればクビにしたくない。しかし給料が払えそうにないんだ」


 うーん。数秒前の俺を殴りたい、右ストレートで。

 とても真っ当な理由だった、そしてまとめ役は聖人だった。こんな聖人を俺は疑ったのか。

 俺は黙る。


「ーー本当に申し訳ない!!」

「いえ気にしないでください!」

 正直パーティはホワイトすぎた。収入が絶たれてしまう怒りより、同情してしまうのは俺がおかしいのだろうか?


「あと退職金のことだが、今は払えそうにない。半年以内には払うから今は許してくれないか?」

「ああいいよ! あんたは立派すぎる! がんばってくれ!」


 こうして俺はフリーになった、とりあえずはフリーでも受けれる依頼で食い繋いで行こうと思う。

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冒険者イノウエ 宇二井 つくいす @unii_tukuisu

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