第7話 ダメ押しにもう一押し

 俺は魔王に気に入られ、魔物となった傭兵三十名を指揮下に置いた。

 残りは魔王へ増員として渡し、魔物の徒党を軍として『魔王軍』とした。


 魔王軍は、魔王と側近を最後尾に配置し、アインヘルムへと進軍を開始する。


 今までは勇者や騎士団と言った不安要素があり攻め込まなかった魔王も、俺の策に乗っかったことで総攻撃に出る気になったようだ。


 この軍だが、先頭には俺が立つ。

 人間だと見抜かれぬよう仮面とマントで変装し、アインヘルムまでの『どうでもいい街』から人を逃がしていた。


 魔王は皆殺しを望んだが、人々が逃げる先はアインヘルムになるだろう。


 最終的に一か所に集めて纏めて潰した方が手っ取り早い。

 これには魔王も同意した。


 ちなみに家族のいない子供たちは前々から用意してある孤児院建設中の街へ逃がした。進軍するにあたり邪魔にならないところにあるので、魔王にも秘密だ。


「さて、今頃勇者たちはどうしてるだろうな」

「貴様の計画が順調なら、慌てふためいておるのではないか?」


 進軍途中、魔王と側近を含めた話し合いをしているが、確かに今のところ順調だ。


 思えば勇者パーティーを追放されるのが成功してから、魔王軍に百名の傭兵をプレゼントし、とっておきの策まで用意した。

 勇者の怒る姿が思い浮かぶというものだ。

 

「魔王様の言う通り、今頃勇者パーティーはアインヘルムに呼び戻されてるだろうな。勇者の苛立つ顔が目に浮かぶってやつだ」


 カカカと、魔王は笑った。余程勇者が気に食わないと見える。


「せっかく我へ近づけていたというのに、いきなり戻れと言われれば、はらわたも煮えくり返るというもの。これ一つとっても、貴様に力を与えてやった十分な意味があった」


 そう、今の俺は魔物になるギリギリまで闇の魔力を与えられている。

 最初こそ眩暈がしたが、身体に馴染むと闇の魔力から魔物になる『闇』の部分は消えた。


 今では純粋な魔力として、俺の身体の一部となっている。

 順調順調。


「このまま、我らが淘汰してくれようぞ!」


 魔王が声高に叫んだ。

 言葉を理解する側近たちも、ゴブリンやオークのような知能の低い奴も、魔王に続くよう騒いでいる。


「淘汰か……期待してますぜ? 魔王様」


 俺も魔王と騒いだ。

 アーサー達の顔色を窺いながらの宴よりはマシだと、かつての日々を思い出していた。


「っと、騒ぐのもいいが、この後のことも少しいいですかね」

「む? この後?」


 魔王は顔を向けると、また笑い顔を浮かべる。


「なんだ、まだ悪知恵が残っておるか。良いぞ、聞かせろ」

「いやまぁ、そこまで重要じゃないんだがな。ダメ押しにいくらか、アインヘルム近辺に小軍を派遣しようかなと」

「ふむ……何故だ?」

「アインヘルムの騎士団を更に消耗させようとな」


 計画はこうだ。武具を買い占め、鍛冶屋も買収し、騎士団は弱体化した。

 だが、ある程度は武具も揃っていただろし、騎士団お抱えの鍛冶屋もいるだろう。


 完全なる弱体化にはなっていない。

 このまま進軍を続ければ、全面対決も近いなら、まともにやり合う前にダメ押しだ。


「ということで、魔王様から見て、知恵の回る魔物を一人をトップに置いた「嫌がらせ部隊」を編成してもらいたい」


 嫌がらせ。どうやら魔王もその言葉は好きなようだ。

 それに、この計画における嫌がらせが、どのような魔物に適しているのかも分かっているようだ。


「長は翼のある者が良いな。追従するのは足の速い小兵と、地に潜れる者が良いだろう」

「選ぶのは任せても?」

「任せるもなにも、我の軍だ。なに、長さえ決めれば、その者が選ぶ。なにせ我が配下なのでな」

「了解だ。魔王様のお眼鏡に期待させてもらう」


 魔王ということもあり、そういう細かいことは押し付けられると思っていたが、本人が乗り気ならそれでいいだろう。


 さて、アーサーはどう反応するか。俺としては、怒ってくれていると楽しいのだが。

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