第4話 さぁ行こう、無法者どもの街へ

 アーサー達が魔物の洞窟やら森やらを一つ一つ丁寧に潰している中、俺は立ち寄った街に隠してきた金を回収した。


 シエルとのこともあり、ついでに莫大な金も盗んだ。


 それから馬で魔王城方面へ走り、ようやく目をつけていた街へとたどり着く。

 荒廃した街を見渡していると、スキンヘッドの男と目が合う。


「あ? なにガンつけてんだ!?」

「ん? いやいや別に、お構いなくってやつだ。観光で来たんでどんな奴が住んでるのか観察してた」

「ケッ、この街に観光だぁ? イカれてるか馬鹿かどっちかだな」

「どっちもかもしれないから、俺なんかほっとけ」


 ニシシと笑ってやると、男は気色悪がって去っていった。

 それから改めて街中を見渡す。


 どいつもこいつも目つきの悪いゴロツキどもの街だ。

 アインヘルムもすっかり見放した街には、大小問わず悪党どもがたむろしている。


「オラ! とっとと歩け!」


 鎖でつながれた子供たちを、中年の男が鞭で叩いて連れていた。

 奴隷商売はグレーだったはずだが、アインヘルムから離れたら離れるだけ関係なくなるようだ。


 人権もなにもかも存在しない様な左右無法地帯になるのだ。


「う、うぅ……」


 子供たちは鞭で叩かれても言い返すことさえできず連れて行かれる。

 もはや死んだような顔つきの子供たちは、正直見ていられないのだが。


「丁度いいな」


 子供から奴隷商へ視線を向けると、その肩を叩いた。


「今少しいいか?」

「あ?」

「そう怖い顔するなっての」


 奴隷商に話しかけると、やはり睨まれた。

 だが懐から金貨を取り出してチラつかせると、途端にゲヒヒと笑った。


「この街で金貨を見るのは久しぶりだ。するとアンタは、どこぞの名のある貴族様か?」

「俺が貴族に見えるか? ジョークにもならない。だがもし趣味の悪い貴族の使いッパシリって言ったら?」

「大歓迎だ! ほら見てみろこのガキどもを! 薄汚れちゃいるが、金によっちゃ綺麗にして売ってやる。好みはどんなだ? 肌の白い小娘から、褐色の小娘。ちょいと太ってるのもいる。無理やり食わせたんだよ。それと、なんなら美形の男もいますぜ?」


 正直、奴隷の子供たちにはある意味、とても興味がある。

 俺の生い立ちから来るものと、計画のために来るものの二つだ。


 しかしまずは、この奴隷商を落とすのが先だ。


「売り込みに力が入ってるが、やっぱりこの街は不景気なのか?」


 言うと、奴隷商はウンザリしたように天を仰いだ。


「どこもサッパリだ! 金持ってる奴は街を出ていくし、行商人もロクに来ない! 全部勇者とアインヘルムの国王のせいだ!」


 金持ちたちは、勇者がご丁寧に魔物を全滅させてくれたアインヘルム方面の街へ逃げ、国王は勇者のバックアップのため騎士団の強化――つまりは、武具を買い占めている。


 今のところ武具の方は難航しているらしいが、これが決まれば安全な方へ逃げる奴はどんどん増えるだろう。


「はぁ―あ、奴隷もすっかり売れなくなってきちまったしなぁ。このガキ共も、別の街に売り込みに行くが売れてくれるかどうか……」

「というとあれか、アンタたち奴隷商もだが、”お仲間”も懐が寂しいのか?」


 言うと、奴隷商はピクリと眉を動かす。


「お仲間? さぁ、誰のことだろうな? 俺はしがない奴隷商なんでな」


 両手を広げてとぼける奴隷商に、ポケットから銀貨の束を掴むとジャラジャラ目の前で落として、とことんお道化てやった。


「おっと落としちまった。この後、この街を仕切ってるアイツらとの取引で使おうと思ってたお釣り用なんだが、迷ってな。誰か、拾って教えてくれねぇかな。アイツらの場所に連れてってくれたら、お礼にくれてやるんだが」


 奴隷商は目を光らせると、地面に落ちた銀貨の山へ視線を移す。


「……お分かり?」


 一言問いかければ、頭を掻きながら「そういえば」と、拾いながら話始める。


「この後デカイ取引があるんだった! 傭兵たちに奴隷を安全に届ける仕事を頼むんだが、アンタも来るか?」

「そりゃいいな! 俺も傭兵に用があったところだ!」


 互いに笑ってから、奴隷商についていく。だがその前に、


「そのガキどもを全員買う。いくらだ」 


 十人ほどの子供たちも、奴隷商も驚いていた。だが俺は本気だ。


「ちょっとした都合で悪いことにも容赦しないって決めたんだが、子供だけは特別でな。全員買う。傭兵との取引が終わったら別の街に移す。暖かい孤児院も建設中だ」


 悪人になろうとしても、やはり過去は変わらない。

 大人になって奴隷になったクズはともかく、生まれを選べない子供には手を差し伸べる。


 孤児院だって本当に造っている。金なら腐るほどあるのだ。

 奴隷商を落とした今、子供たちは全力で助ける。


 人間の世はどうしても金で左右される。

 金があれば奴隷の子供だって救えるし、沢山の物を与えられる。

 学びの場も温かい寝床も美味い飯も、人権だって与えられる。


 シエルと決別して盗む相手の幅を広めたから、それだけの金がある。

 この後の計画のための金も、タンマリとある。


「勘定は後でな。まずは案内しろ」

「あ、ああ……ええと、だけどよぉ、買うにしても書状にサインが必要で……」

「ペンは?」

「あるけどよぉ……その、俺としては、このガキを全員買うのはお勧めしないぜ?」

「別の街に運ぶのを護衛する傭兵が怒るからか? なら気にするな。奴らを黙らせる計画はある」


 奴隷商は不気味なものを見るように俺へ視線をやってから、書状とペンを差し出した。全てにサインすると、子供たちへ膝をつく。


「辛いのはもうすぐお終いだ。それから他に子供の奴隷の知り合いがいたら教えてくれ。全員買う」

「……お兄さんは、誰なの? 良い人なの? それとも悪い人?」


 一人の女の子がそう聞いた。賢い子だ。

 金を持ってるのが良い人だけじゃないのを知っている。


「どちらかと言うと、悪い人だ。けど、子供には全面的に良い人だ」


 頭をなでてやると、奴隷商に傭兵たちのたまり場へ案内させた。

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