第2話 囮にされたお陰様です
追放された街だが、ここは魔王城とアインヘルムとの中間に位置する。
どちらからも馬を潰す勢いで走って十日ほどの距離だ。
勇者パーティーを追放された翌日、人目を気にして裏路地に入ると、盗人のスキル『ディメンションスペース』を発動する。
すると、薄暗い裏路地に異空間の扉が開く。
このスキルは特定の場所に何かを隠しておけるのだ。
普通の盗人では十年は修行しないとMP切れとなるのだが、俺の場合特別な理由があり何度でも使える。
「さぁて、隠してたブツは……あった!」
今まで立ち寄った街で盗んできた金の詰まる『ずた袋』だ。
開くと、大量の金貨がつまっている。
俺は盗人の名に恥じぬよう、立ち寄った街や村で成金だとか悪党から金を盗んできたのだ。
決して、弱き者や普通の商店からは盗んでいない。
これでも孤児院育ちなので、弱い者いじめは慎んでいるのだ。
「他の街でも回収するとして……どんだけありゃいいかな」
考えるのは、魔王城へ連れて行く仲間の数だ。
いや別に新しいパーティーを組むというわけではないのだが、魔王相手にあれこれと交渉するために必要なのだ。
「なんとしても魔王に取り入らねぇとな。あの力のためにも」
盗人はハッキリ言って弱いジョブだ。
だが、魔王と言う魔物を率いて一国を敵に回す程の化け物の力を手に入れられたら違う。
人間の使う魔力とは質の違う『闇の魔力』を操れたらどれだけ強くなれるか。
一度、それを体感したことがある。あれは二か月ほど前のことだったか。
~~~
――二か月前の洞窟にて
この頃の時点で、俺はアーサーを嫌っていたし、嫌われてもいた。
だがアーサーはレオンとエレナに信頼され、上機嫌に洞窟内を進んでいた。
曰く、「魔物が出ても倒せばいいだけ」とのことだが、盗人の俺やヒーラーのシエルにどうしろというのか。
気にもかけず、ズンズン進んでいく。
流石に不用心すぎるので、「少しは警戒を……」と言ったのだが、鼻で笑われた。
「俺たちは勇者パーティーだぞ? 何を恐れてるんだお前は」
「その、いきなり敵に出会うと、俺は隠れるか逃げるかしかできなくて……」
「ハッ! 臆病な奴だな!」
自信満々のアーサーだが、レオンが口を挟んだ。
「んでもよぉ、俺とアーサーはともかく、後衛のエレナとシエルは下がってた方がいいよなぁ」
「む、それもそうか……なら隊列を組む。シエルを一番後ろに置き、次にエレナだ。その前を俺とレオンが行く」
「……あの、俺は?」
その時、舌打ちをされたのを忘れることはないだろう。
「雑魚の面倒を見るのも勇者の仕事だからな。俺とレオンの後ろに隠れてろ」
仲間を雑魚呼ばわりする奴は勇者じゃないと内心言い返してから、洞窟内を進んでいく。
途中でトラップにかかった死体を見て、はわわわ、とシエルが驚いた。
「ゆ、勇者様、ここは魔物の洞窟です。トラップにも気をつけた方が……」
「シエルは心配性だな。なに、罠の一つや二つ食い破るまでだ」
食い破るなんて言っているが、具体的にはどうするのか。
しかしまぁ、この勇者が馬鹿みたいに強く頑丈なのは周知の事実だった。
悔しいが、俺も認めている。
レオンもまた剣士として鍛えられているので、ちょっとした罠ならなんとかなる。
しかしだ。
「あの~、一応俺、罠感知のスキルあるんだけど」
言うも、必要ないの一言で片付けられた。俺の意見に耳を貸す気はないようだ。
そして洞窟内をしばらく歩いていると、先頭を行くアーサーとレオンが足を止めた。
「強い魔力を感じるな……」
アーサーが口にしてから、曲がり角からその先を見やる。
それからすぐに、俺を引っ張ってきた。
何事かと曲がり角の先を見ると、人間と同じ体だが、どす黒い肌をした大男が佇んでいる。
感じる魔力からして、魔王の僕たちを軍とするならば、その将校とも呼べる強敵だ。
しばらく曲がり角からアーサーと様子を窺っていると、肩をポンと叩かれた。
「おいライア、とっとと奴の武器を盗むか壊すかして来い」
「えっ……とは言っても……奴の得物は片手に剣、もう片方に杖と二つありまして……」
「俺の命令が聞けないのか!?」
内心「ケッ! さっきまでの自信はどこいった!」と蔑んでいたが、断れば食事抜きになるかもしれない。
ハイドのスキルで透明になり近寄り、まずは物騒な剣を盗もうとした時だった。
「当たったらごめーん!」
俺がいるというのにエレナが火炎魔法を飛ばしてきた。
火炎魔法の中でも上位に位置する爆炎であり、このままだと俺も巻き込まれる。
しかし当然敵は気づくわけで、注意は爆炎へ向いた。
「ああクソ! こうなりゃヤケだ!」
逆にこっちへの注意がなくなったので、その手から剣を奪おうとする。
だが、敵はフッと笑った。
「気付いていないとでも思ったか」
喋れるんだ。なんて思う間もなく、剣で爆炎を斬りながら杖を向けられた。
「染まれ、魔に。そして魔王様の僕となれ」
逃げる間もなく杖から発せられた黒い霧に包まれた。
呼吸もできなく、その場に倒れてしまう。
「カ……! コイツ、は……!」
その時、『死ぬ』とか『苦しい』とかの以前に、身体に『力』が満ちるのを感じた。
魔王討伐の旅に出る時、国王から聞いたことが頭によぎる。
魔物の使う『闇の魔力』に侵されると、自我を失い魔物になるが莫大な力を得るという話だ。
このまま魔物になるのか。
なんて思っていると、レオンとアーサーが斬り込んできた。
二人の剣とエレナによる後方からの支援で倒せたようだが、その間俺は意識を失いそうになりながら身を震わせていた。
「ライア!」
そこへ、シエルが駆けつけてきたくれた。
ヒーラーのみが使える浄化の魔法で闇の魔力を払ってくれると、どうにか意識がハッキリした。
「大丈夫!?」
「あ、ああ……」
心配するシエルへ、なんとか無事なことを伝える。
だが一歩間違えば死んでいた。それか魔物になっていた。
だというのに、アーサーはフフンと得意げだ。
「お前を囮にして魔法で視界を塞ぐ。その隙に畳みかける。我ながら最善の策だな。ライアも助かったし、流石勇者ってところか」
自画自賛をするアーサーを、レオンとエレナが褒めたたえた。
「よっ! 勇者様! このレオンはどこまでもついていきますぜ!」
「アタシの魔法を有効活用してくれてありがとうね。ちょっと汗かいちゃったけど、結果オーライね」
俺のことなど、ついでくらいにしか思っていない。
シエルも怒ってか、アーサーへ詰め寄ろうとするも、睨まれて強く出られない。
とはいえ……。
「魔力が増えた……? それに明らかに盗人の魔力じゃないな……」
アーサーやシエルが言い合っている中、身体の中に増えた魔力――おそらく、敵の使ってきた闇の魔力らしき物の残滓を感じていた。
今までの数倍――下手したら数十倍の魔力がある。
この時だ。魔物たちの使う闇の魔力を操ることができたら、盗人の俺でも勇者のアーサーを見返せるのではないかと勘付いたのは。
『夢』も叶うのではないかと。
その方法も、旅をするうちに確立されていった。計画として形になると、俺はひたすらアーサーからの追放宣言を待っていたのだ。
結果、晴れて追放してくれた。
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