第3話 会議、スタート
大変な配信を終えた翌日。
俺はレインボーから声がかかり、学校を休んで事務所まで来ていた。もちろん、佳奈も一緒だ。
だが……
「佳奈、大丈夫か?」
「うん。まあね」
そう言って力なく笑う佳奈。目にうっすらとくまができていた。
「…………そうか」
明らかに佳奈は限界を迎えていたが……俺は強がる佳奈になにもいえず、事務所の指定された会議室まで行った。
そこには、メビウスが俺がきたことにに気付き、手をひらひらと降ってきた。俺も振り返し、会議室をざっと見る。
かなり大きめの部屋に、結構な人数の女の子が集合していた。年齢層は、大体十代と二十代と言ったところか。
ちなみに、俺はVtuberとしてきている都合上、いつもの女装スタイルである。
どうやら席順は自由っぽかったので、ひとまず俺はメビウスのそばに腰を下ろす。
「おはようございます、お姉ちゃん」
「おはよう、メビウス」
「昨日は大変でしたね。僭越ながら私も応戦させていただきましたが……Banが追いつきませんでした」
あれ、メビウスもモデレーター権限(作者注・コメントを削除したり、視聴者のコメントを制限したりする権限のこと)を持っているのか。
「うん。渡しておいたよ。メビウスなら悪用したりはしないだろうし」
「はい」
「……あれ?ていうか、俺の配信見てくれてるんだ」
「はい。姉の配信を見るのは妹の義務ですからね」
メビウスはそういうと薄い胸をはる。
可愛いのでとりあえず頭を撫でておいた。
「お集まりいただき、ありがとうございます。これより、緊急会議を始めます。議題は、現在起こっているネットの問題について」
メビウスと談笑していると、急に会議が始まった。メビウスはもはや定位置と貸している俺の膝の上に乗ってきた。
「昨日配信された方は知ってる、もしくは身をもって体験された方がいると思いますが……現在、Vtuberの配信が問答無用で荒らされる事態が発生しています。それも、事務所に所属しているか否かにかかわらず」
今発言しているのは、レインボーの社長、近藤麗華さんだ。何度か、事務所にきた時に顔を合わせたことがある。
「……つまり、Vtuberそのものが攻撃対象になっている、と?」
と、事務所ナンバーワンのレイラ・ファントム。かなり険しい顔をしている。
「はい。すでに攻撃にあった個人勢が何人か引退を表明。レインボーの中にも、当分は配信をしたくないという連絡をしてきた方が何人か。現在、全力で対応に当たっていますが」
「…………自体は深刻ですね」
と、メガネをかけた知的な美人さん。事務所序列四位の、イリーナ・ライトさんだ。
「事務所はどういう対応を取る予定ですか?」
と俺の膝に乗っているメビウス。
「我々としては、コメント蘭の監視の強化、演者のメンタルケア……といった対応を予定しています」
「……つまり、とくに特別なことはできない……と言うことだね」
「…………ええ」
近藤さんは沈痛な面持ちで首肯した。
「我々のキャパシティにも限界がありますし」
「ふむ……マスターライブとの連携は?どうなってる?」
マスターライブというのは、レインボーと双璧をなすVtuberプロダクションの一つだ。
「現在、連絡が取れていません。おそらく、電話攻撃にあっているのかと」
「……個人的に、担当者へ連絡は?」
「それを説明する前に、こちらをみて欲しいのですが」
近藤さんはぽちぽちと手元のタブレットを操作してプロジェクターで一つの掲示板らしき画面を映し出す。
そこには、大量の電話番号が書き込まれていた。
「まさか……」
「ええ。私たちが知っているマスターライブの連絡先がいくつかあります。そして、我々の電話番号も」
おいおい……
「他にも……Vtuberの演者の情報が流されたりしているようです」
それを聞いて、部屋の何人かが顔を青くした。
「Vtuberは、スネに傷を持つ人もいるから……もし、過去の過ちが暴かれたりしたら……」
「Vtuberというジャンルそのものが、大きく打撃を受けることになりますね」
俺も、中身が男であるということをバラされたらかなりまずいことになる。
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