八つ墓村おじさん

NADA

「深夜の散歩で起きた出来事」

えっ?…見間違い?

…じゃない


嘘だろ…


深夜2時、コンビニへ煙草がきれたので買いに出た康佑こうすけの目にとまったのは、30メートル位先の人影


「どう見ても八つ墓村じゃん…」


ミステリー作家横溝正史の金田一耕助シリーズに登場する、村人を何十人も襲って殺した犯人の格好と同じ姿をした男が前から歩いてくる


頭に鬼の角のように懐中電灯を二本巻きつけて、両手に猟銃と日本刀

前がはだけた服を着て、髪は落ち武者のように乱れている


マジか…怖すぎる…

康佑は一瞬立ち止まる

ミステリー好きの康佑は金田一シリーズは名前が同じこともあり、ほとんど読んだ


確かあの話は実話がモデルになっていたはず…

ずっと昔の事件だが、犯人は実在した

いやいや、そんな訳ない…!


きっとあれは、コスプレだ

このご時世、ハロウィンじゃなくてもコスプレする人間なんていくらでもいる

暗い中、視力が良い康佑には返り血のような血のりがついてるのがはっきりと見えた


リアルだなー…

「ガチのコスプレイヤーだな、うん、きっとそうだ」


康佑は独り言を言いながら、足を動かした

道は狭い一本道で、このまますれ違うか、元来た道を引き返すかの二択だ


もう八つ墓村おじさんは、近くまで来ていた

今、背を向けて逃げる方が怖い

逃げ切れない気がする


かなり恐ろしかったが、緊張した康佑の体はそのまま歩き続けた

至近距離で懐中電灯の光が康佑を照らす

足元に目をやると、草履を履いていた

近くで見るおじさんは、本当にリアルで迫力がある


すれ違いざま、すごい形相のおじさんの血走った目と目が合った

おじさんは薄ら笑いを浮かべた


康佑は笑うおじさんを見て、少し安心して軽く会釈をした


「あ、こ…こんばんは~…」


康佑は2、3歩進んで、チラっと後ろを振り返った


誰もいない


今、ここですれ違ったはずの八つ墓村おじさんは消えていた


「わあぁぁぁーーー!!!」

康佑は大声を上げながら、コンビニへダッシュした






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八つ墓村おじさん NADA @monokaki

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