第23話


「……ん」


 目が覚めた。

 が、まだ部屋は暗い。


 早くに眠ったせいで、夜中に目が覚めてしまったようだ。


「……ん?」

 

 布団の中に何かいる?

 いや、抱きつかれてる?


「……わっ!」


 隣を見ると、そこには一条の寝顔が。


 すやすやと、無防備に眠る彼女が俺にしがみついていた。


「……いや、ドキドキなんてするもんか。これくらいは想定内だ」


 初デートまで何もしない。

 そう言ったのは一条の方だ。


 俺から何か間違いを犯すことはまずないし、まあ、布団の中で抱きつかれるくらいのことであれば心を鬼にして歯を食いしばれば我慢できないわけでもない。


 しかし、あたたかい。

 女の子って体温高いなあ。


 それに、柔らかい。

 まるで素肌がそのまま触れてるような……ん?


「……わーっ!」


 布団をチラッと捲ると、一条が裸だった。

 俺はすぐに布団をかけ直した。

 が、一条はしっかり俺に抱きついたまま離れる気配がない。


 どころか、なぜかさっきより力が強まった?


「ま、まずい……意識したら体が」


 俺の意思とは関係なく、体が反応する。

 しかし、もしこんな状況で一条が起きてしまったら。


 いや、それ以前に俺がもう限界寸前。

 このまま一条に覆い被さって、もみくちゃにしたい。

 されたい。

 触りたい。


 そんな欲望が俺の中に沸いてくる。


 が、もちろんそんなものに簡単に飲まれたりはしない。

 天井を見上げて我慢する。


 目をつぶって別のことを考えてみる。


 しかし、一条の柔らかい胸が俺の腕に押しつけられるとまた、意識がグラつく。


「……ぐっ」

 

 歯を食いしばって、一条に伸びそうになる手を止める。


 すぐそこに、男の夢が、ロマンが、憧れが、そして俺が男として生を受けた意味が、ある。


 しかし、俺は普通のスケベな男ではない。

 幼くして両親を奪われ、復讐のために生きてきて、ようやく親の仇に復讐できるかもしれないところまできたのだ。

 

 今ここで、いっときの誘惑に流されるわけには……いや、待てよ?


 俺は、一条と深い関係になってから捨ててやると決めていたんだ。


 だったら、エッチなことだってしてもよくないか?

 うん、いいはずだ。

 ていうか、していないと別れる時に向こうもあっさり引いてしまうだろうし。


 うんうん、そうだ。

 これは復讐のため。

 決してスケベ心ではなくてだな。


 目的のために。

 一条を……。



「……いや」


 性欲を満たしたい一心で一条を抱くことに正当性を見出そうとしていたが、結局のところそういう問題ではないことを思い出す。


 一条はメンヘラ。

 体の関係なんか持ってしまったら、もうこの沼から逃れられる気がしないというか。


 多分別れたら殺される。

 言い訳する余地もなく。


 そしてこいつは既成事実を作ろうと、こうして裸のまま布団に潜り込んできてるに違いない。


 やはり術中にハマるわけにはいかない。

 危なかった。

 ここはグッと耐えて、寝るんだ俺。


 耐えろ、耐えるんだ。


 もうじき朝がくる。


 明るくなれば一条も目を覚ますし、そうなればきっと……。



 ざーんねん。

 襲ってくれないんだ、寂しいなあ。

 だけど、こんな状況でもちゃんと私のことを大事にしてくれるの、とても嬉しい。


 チャラチャラした人じゃないんだね、やっぱり。

 正直、こんなに誘惑してるとはいえ、寝てる私に手を出してくるような人ならもしかしたら熱が冷めてたかもなあって思ったけど。


 もっと好きになっちゃった。


 もう、私のこと好きにしてくれていいからね。


 もちろん、責任はとってもらうけど。


 ふふっ、彼がもう一度寝たら私の方から、しちゃおうかな。


 ちょっとだけ。


 サービスだよ。



 

 

 

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