待ち合わせ

リト

第1話

夕日の光が差し込む教室。すみれは穏やかな光をその身に受けながら机に顔を伏せて眠っている。誰かからの連絡でも待っていたのだろうか、机の上にはメッセージアプリを起動したままのスマホが置かれている。


夕日が先程よりも少し傾いたころ。教室のドアがガラガラと音をたてて開けられる。開いた扉から駆け込んできた弓場は入ってくるなり慌てて遅刻の弁明をする。


「遅れてごめん!クラブのミーティングが長引いちゃって」


そこまで言ってからすみれが寝ていることに気が付いたのだろう、弓場は思わず苦笑を漏らす。起こさないように気を付けながら七海の前の席の椅子に座る。


「すみれ?寝ちゃったのか?」


先程の慌てた様子とは打って変わって穏やかな声音で話しかける弓場。その表情は愛おしい人を見つめるようなものだ。 いや、二人の関係を考えれば類似ではなく本物なのだろう。 起こそうかとも思ったが、最近すみれが忙しそうにしているのを知っているのでなんとなく起こすのは憚られた。幸い、下校時間まで少し余裕がある。最悪走れば校門は通れるだろう。


「ったく。待ってる間に寝落ちしちゃうくらいなら無理せず夜ちゃんと寝ろよな。起きたら説教してやる」


自分が遅刻したことは棚に上げて、弓場はぶっきらぼうな言葉にに合わない優しい手つきで彼女の頭を撫でる。


誰かに頬をつつかれる感触に思わず目が覚める。どうやら寝てしまっていたようだ。少しの待ち時間で寝入ってしまうなんて予想以上に疲れがたまっていたのだろう。こんなところを心配性の彼に見られたらまた心配をかけてしまう。心配されるのは嬉しいが、いつまでも保護される子供みたいに扱われるのも面白くない。時間を確認しようとスマホに手を伸ばすと、誰かの手にぶつかった。


「ああ、ごめんなさい。私寝ちゃってたみたいで」


彼がまだ来ていなくてよかった。もし仮にもう来ていたのだとしたらうるさくてもっと早く目が覚めていただろう。そんなことよりスマホを探そうと手を机の上に滑らせるが、まるでその場から消えたかのように見つからない。仕方なく瞼を開けてぼんやりとした視界で机の下を覗き込んでみるが影も形もない。寝ている間に誰かが持って行ってしまったのだろうか。一つため息をこぼし てから椅子から立ち上がろうとして、そういえばこの教室には自分以の人が居たのだったと思い出す。


「あの、すいません。私のスマホ知りませんか?」

「それって可愛らしい熊のストラップが付いたものですよね?」

「ええ、そうですそうです。知ってるんですか?」

「彼氏と撮った写真をファイルにまとめてるよね。友達に見られたくないからってわざわざパスワードまで設定して」

「なんでそんなに知ってるの!?まさかあなた私のスマホ盗ったんでしょ!返して!」


勢いよく顔を上げると、誰かの顔にぶつかった。


「いったいなあ」


うそ。なんで彼の声が聞こえるのよ。絶対にありえない。何かの間違いに決まってる。


「待たせて悪かったな。奢るからスタバ寄って帰ろうぜ」


顔を上げて前を向くと、今一番会いたくなくて、でも待っていた男の顔が目に映る。


「遅いよ、優斗」

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待ち合わせ リト @rito18

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