ストップ詐欺被害 わたしは騙されそう

来冬 邦子

第1話 一人目

―― 地名や人名など個人情報に関わる部分は変えてあります。――


 あれは今年の一月半ば。薄ら寒いキッチンに一人でいると電話が鳴りました。

 我が家の電話は防犯対策として常時留守番電話にしてあるのですが、その日に限ってはスマホの嫌いな叔父からの連絡を待ってたので、番号も確かめずに電話を取ってしまいました。


「もしもし。カピバラさんのお宅ですか?」


 聞き覚えの有るような無いような。愛想の無い初老の男性の声でした。


「はい。カピバラですが」(個人情報ですのでいろいろ変えてあります)


「わたしは無限区役所国民健康保険課のヨコヅナイワシですが(個人情報ですのであれこれ変えてあります)昨年の九月に書類をお送りしたのですが、返信の必要な書類でして。憶えていらっしゃいますか」


 去年の九月といえば、家族が緊急入院した月でした。届いた手紙類にすべて目を通したかどうか、自信がありません。この時点でわたしはすっかり信じてしまいました。それと相手がしっかり名乗ったことも信用する気持ちになりました。


「いえ……ちょっと憶えていないのですが」


「そうですか。困ったな」


「申し訳ありません」


 わたしは素直に謝りました。すると――。


「医療費還付の書類なんですよ」


「えっ、そうなんですか?」


「ええ、ただ締切が過ぎてまして。どうするかな、ゴニョゴニョ」


 よく聞き取れない一人言の末に、ヨコヅナイワシは言いました。


「それでは、もう一度送りますので。届いたらに記入して返送してください」


「わかりました。御連絡ありがとうございます」


「はい、どうも。失礼します」


 ヨコヅナイワシは(いかにも役人らしく?)味も素っ気も無い声で電話を切りました。わたしはと言えば、やったー、還付金だー。と喜んで、完全に騙されていました。


<大事なこと> 自分の都合で勝手に騙されてはいけない。

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