ボク、女の子になって過去にタイムリープしたみたいです。最推しアイドルのマネージャーになったので、彼女が売れるために何でもします!
奇蹟あい
第一章 オーディション 編
第1話 僕の最推しアイドルが引退してしまった
『国民的アイドルグループ≪The Beginning of Summer≫の夏目早月さん(18)が引退を表明』
本人不在の中記者会見が行われ、事務所の社長が本人からのメッセージを代読するという形で、夏目早月(なつめさつき)の引退発表はなされた。
メイメイ引退のニュースは、すぐさまトレンド入りし、日本中へと広がっていく。
“うっそ、メイメイやめちゃうの?”
“昨日の生放送で普通に歌ってたよね”
“卒業公演なしってマジ?”
“ああ、これは事務所とトラブったな”
“センターのちーちゃんがいれば初夏は大丈夫だからwww不人気メンおつw”
“やっぱ男じゃね? そんなうわさあったし”
驚き、悲しみ、批判、強がり。
様々な感情が入り乱れたツイートがタイムラインを流れていく。
「えっと、引退ってなんだっけ……」
目がチカチカする。
「メイメイいなくなっちゃうの?」
なにもわからない。
「もうおしまいってこと?」
最推しがいなくなってしまった。
メイメイは僕のすべて。
僕の人生。
もう、おわりだ。
僕こと七瀬楓(ななせかえで)は、手に持っていたスマホを放り投げながら、ベッドにあおむけに倒れこんだ。
天井のメイメイと目が合う。
地下アイドル時代の≪The Beginning of Summer≫こと≪初夏≫が定期公演で販売したB全サイズのポスター。メイメイのサイン入り。
まだオタの人数も少なかった頃の定期公演はよかったな。
箱は狭かったけれど、メンバーとファンに一体感があった。
そりゃ≪初夏≫は今だってすごいよ?
来週は結成当初からの目標だった武道館だもんね。
≪初夏≫はデビュー3年目で完全に世間に認知された。
今やテレビにCMに、彼女たちの姿を見ない日はないし、念願の武道館コンサートのチケットは発売1分で完売するほどの人気アイドルグループへと成長した。
メンバーも初期の5人から7人になり、ダンスパートのパフォーマンスはより力強く迫力が増した。
ずっと順調にきたわけではないけれど、それでも一歩一歩着実にトップアイドルへの階段を上り続ける彼女たちを見ていられるのはとてもうれしい。
これがメイメイの目指すアイドルなんだと思うともっとうれしい。
『私たちがアイドルでいるためには、私たちだけががんばってもダメだと思うんですよ。ファンのみんながいてこその私たちというか、ファンのみんなと一緒にちょっとずつ成長していきたいんです』
僕がメイメイと出会うきっかけになったインタビュー動画の一節。
なんてことはない。別に名言というわけでもない。
うれしそうに夢を語る彼女の姿が僕の心に突き刺さって抜けなくなった。
デビュー当時の地下アイドルグループ5人組時代から、メイメイはリーダーでもセンターでもなかった。認めたくはないけれど、メンバー内で一番人気……ではなかったかもしれないとも言えなくもない。
特徴のある容姿でもスタイルでもなく、強烈な個性が光るキャラクターでもない普通の女の子。
定位置の左端で一生懸命パフォーマンスをするメイメイ。
MCの時、話を振られて控えめに笑うメイメイ。
握手会の時に緊張してしゃべれないのを塩対応といわれて落ち込んでいるメイメイ。
自撮りが苦手で、食べ物の写真ばかりSNSにアップするメイメイ。
不器用ながらも真剣にアイドルとしてファンに向き合おうと努力する姿に、僕はどうしようもなく惹かれていったんだと思う。
きっかけはどうあれ、何も持たない僕が夢中になれるものを見つけた。
メイメイを一目見たときに、魂が震えたんだ。メイメイに僕の一生を捧げようと思った。
『メイメイ一生最推し~Eternal Love~』
僕のお手製うちわに書かれた言葉だ。握手会やライブに行く時に必ず持って行っている。
ガチ恋とは違う……のだと思う。そういう安っぽい言葉でくくりたくない、恋を超越した愛? 自分でも何言ってるのかわからない。
メイメイがいなくなっても、この気持ちは変わらない。
変わらないんだ……。
もし、ちょっと疲れただけなら、気の済むまで休めばいいよ。
もし、事務所とトラブルがあったのなら、僕が社長をぶん殴って言うことを聞かせるよ。
もし、ストーカーにつきまとわれているのなら、僕が警察官になってそいつを捕まえるよ。
もし、不治の病なら、僕が医者になって治すよ。
もし、好きな人ができたのなら、僕は全力で応援するよ。
つらい。
もうむり。
あいたいよ。
メイメイがいない世界に価値なんてない。
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