深夜三時の女

星 太一

傘の散歩

 これは私の身に実際に起きた出来事です。


 * * *


 ○月×日。

 その日は珍しく課題が一向に進まず参っていました。

 夜もどんどん深まり夕ご飯を食べる時間さえ惜しく感じられて、仕方なく袋麵を電子レンジで作ったんです。

 そして深夜三時。そろそろ寝なくちゃなぁと思いながら麵をすすっていると外から突然けたたましい笑い声が聞こえてきました。

 一体誰がどうしてこんな時間に! と内心イラつきながらベランダに出ると下の方、国道沿いの歩道を女が歩いています。

「おいでジェニファー!」

 甲高い声で傘の名を呼びながら引きずっています。傘の散歩でしょう。


 しかしその傘の名にもその光景にもその女にも見覚えがありました。


 そう、私だったのです。


 そうして私は神社に向かって歩いてゆきました。


 舗装された道をコンコン、寝ている人を起こすかのように打ち鳴らして不気味に笑えばとても楽しい!

 そうして真っ暗な神社に着きました。

 幽霊でも出そうな程静かで不気味でこれまた楽しく、ぐるぐる踊り始めます。


 すると


「五月蠅い! 何時だと思ってんのよ!」


 ぎょっとして神主の家の二階を見るとそこには私がいました。


 そうして課題の終わらぬストレスと傘の散歩の騒音によるストレスを私にぶつけた私は電子レンジの電源を入れました。

 時間がないけど仕方ありません。何か腹には入れないと。


 袋麺なら専用の器具を使えば電子レンジで簡単調理できるので楽ちんです。


 そうして課題を終わらせなければと麵をすすりながら机に向かったら突然けたたましい笑い声が外から聞こえてきました。

 時間を見れば午前二時です。


 何を考えているのかとアパートの窓を開けてみたところ傘の散歩をしている女が……。


 * * *


「え? 何、疑うんですか?」


「信じてくださいよ! 本当だって言ってるじゃないですか! お願いですからあの傘の散歩をやめさせてください!」


「あなたもあなたも!!」


(おわり)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

深夜三時の女 星 太一 @dehim-fake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ