4. 私は犯人ではありません

 休憩時間になると、皆が群がって質問を浴びせてくる。たどたどしくも一つ一つに丁寧に答えると、それぞれ満足したのか、数日後には皆の興味はよそに移っていた。


(同年代の子って皆、こうなのかしら……)


 月宮殿では年上の侍女に囲まれて育ったため、同年代との交流経験は乏しい。


(セシルはどっちかというと、兄妹みたいなものだったし……)


 フロラルの塩対応も相変わらずだ。事務的な質問には答えてくれるが、雑談には一切応じてくれない。誰に対してもそうなのかと思いきや、クラスメイトとは気さくに話していた。

 人と違う対応は、やはりこの髪のせいなのかもしれない。

 学園内を歩いていても、白銀色の髪は悪目立ちするようで、どこにいても奇異の視線にさらされる。遠巻きに見られるのは故郷と同じだが、ひそひそと囁かれる内容は満月の王家に対するものが多い。

 好奇心、畏怖、敵対心、さまざまな思いが錯綜している。

 今のところ、勉学は問題ないが、同級生からの情報収集はいらぬ火種をまくことになりかねない。

 寮からとぼとぼ歩き、教室に入ると、皆の視線がディアナに向けられる。


「な……なに?」


 体を硬くして尋ねると、輪になっていた生徒の中から一人の女生徒が前に進み出る。

 クラス委員長のケイトだ。ポニーテールをなびかせ、形のよい細い眉をひそめた。


「今朝、来たらカーテンが切り裂かれていたの。あなたの仕業でしょ」

「え……?」


 窓際のカーテンに視点を転じれば、無残にもズタズタに切り裂かれていた。


「昨日は補習で残っていたわよね。犯人はあなたしかいないわ」


 確かに補習は受けていた。転入して間もないため、皆の授業についていくために特別補習が行われていたからだ。

 だがしかし、完全に濡れ衣だ。


「ちょっと待ってよ、私じゃないわ!」

「この期に及んで往生際が悪いわね。潔く罪を認めたら?」

「だから違うってば……!」


 どう言えば、この疑惑を払拭できるのか。誰か一人でも同じ意見の者はいないかと、周りをぐるりと見渡す。けれど、誰もがさっと視線をそらす。

 ケイトは子供に言い含めるように、声のトーンを和らげた。


「わずかだけど、闇の精霊が召喚された形跡があるの。この学園で闇を操れるのは、満月の王国から来たディアナしかいないでしょう?」

「そ、それは……」


 闇の精霊は、太陽の皇国の者には使役できない。長年、太陽の大精霊の保護下にあるため、呼び出しはできても契約はできない。

 一方、満月の王国は月の大精霊の保護下にあるため、眷属である闇の精霊と契約できる。けれど、これは一般論だ。

 精霊から見放された「新月の巫女」であるディアナは、どの精霊も召喚に応じない。呼び出すことすら不可能なのだ。


(だけど、女王の妹が精霊を呼び出せないなんて知られたら……なんて言われるか)


 グッと歯を食いしばる。嘲笑はいつも聞き流してきた。だけど、自分だけをおとしめる言葉ならともかく、波及して姉まで悪く言われる可能性は高い。

 周囲の視線がちくちく刺さり、ディアナは顔を曇らす。犯人だと決めつけられている中、いくら反論しても誰も取り合ってくれない気がする。


(どうしたら……いいの……)


 返す言葉も思いつかずに黙っていると、ケイトが焦れたように口を開く。


「悪いと思っているなら謝ればいいでしょう。そんなこともできないの?」

「……やっていないもの」

「じゃあ、一体誰がやったって言うの? 他に心当たりでもあるの?」

「…………」


 心当たりなど、あるはずがない。誰が何のために、こんなことをしたのか、まるでわからない。ディアナに罪を着せる気だったのか、偶然の事故なのか。どちらとも言えない。


「黙っていてもわからないで……」

「そこまでだ。学生議会長、ロイヴァート・S・ゼフィードがこの場を引き受ける」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る