第83話 第二ゲームスタート

 幼稚舎120名の戦士5歳児は大災害が起こることになる明石市中心部に転移した。

 どんな災害が発生するかはAI松浦明石市長のランダム選択である。



 海斗空斗兄弟をはじめ、多くの幼児はお父さんお母さんと一緒に調べた明石市のハザードマップを忘れないように必死で思い出そうとしている。


 「おい、空斗、今度こそ生き残るぞ。


 「にいちゃん、今度こそだね」


 陸斗空斗兄弟は顔を見合わせて言う。


 

 「何も起きないね。」


 周りで幼児たちはざわざわしだす。


 通常は何か前兆のようなものが演出されていることが多いからだ。


 雨も降ってないし鳥が騒ぐなどもない。

 

 「水害じゃないか、津波?地震が来るのかな。」


 「そうね。」


 薫子とエマも顔を見合わせる。


 

 突然、周囲のNPCの大人がもつスマホが緊急警報音を鳴らし出す。


 来たか!


 戦士5歳児たちの持つスマホにも警報音が鳴って通知が来る。



 「何?これ?」


 周りの大人NPCたちも一瞥してそのまま普通に歩き続けるもの、何人かで井戸端会議を始まるもの。


 中には慌て走り去るものもいたが、およそ災害という雰囲気はない。


 内容は「プルチノフ連邦国の原子力潜水艦ベルゴロドが紀伊半島沖に出現、大阪湾に向かって核魚雷ポセイドンを発射した模様、2時間後には高さ500メートルの大津波が予想される、大阪湾周辺及び淡路島、徳島県、香川県、高知県東部、和歌山県、三重県に津波の特別警報、津波高さ500メートル。標高500メートル以上の場所に2時間以内に避難してください。にげて!」


 「これ、訓練だよね。」


 そんなささやき声が周りの大人NPCたちから聞こえる。


 防災無線からも避難してください、避難してくださいと連呼する声だけが流れてくる。


 テレビやネットニュースもそんなニュースは流れていない。

 戸惑うのも無理はなかった。


****

 「ちょ、ちょっと園長先生、地震や津波ならわかりますけど核魚雷ってなんですか?そんなもの子供に理解できませんよ。」


 様子を観察していた保護者の一人が園長に詰め寄る。


 渋谷園長は銀色に光る複眼のような眼帯をいじりながら答える。


 「あの子たちはそんなにやわではありませんよ。」


****


 薫子は祖父から長さや重さの単位を習っていて500メートルという数字にも反応した。

 「明石海峡大橋289メートルより高いやん。」


 イメージは湧いたが、どうしたものか戸惑った。


 一箇所、お父さんの実家のお墓がある町が頭に浮かんだ、あそこなら。


 その時、反応した戦士5歳児がもう一人いた。

 蒼・タイラである。


 父が自衛軍の軍人でまさにその核魚雷ポセイドンの専任調査官であり、10年前の令和5年に原子力潜水艦ベルゴロドに配備された話も聞いていた。


 蒼はみんなに説明する。


 「核魚雷ポセイドン、お父さんからきいたことがある、プルチノフ連邦国が令和5年に配備した終末兵器だと、あれが海の中で爆発したら六甲山の中腹まで津波が押し寄せるからそれより高いところに避難しないといけないって。」


 「お父さんは、俺なら高野山に逃げるな。とも言ってた。」


 薫子は自分が思い浮かべていた父の実家、高野山町の地名が出てきて驚いたが、そこなら大丈夫という確信もあった。

 町全体が標高800メートルにあるからだ。


 「蒼のいう通りよ、明石駅前に行きましょう、あそこにはスカイアークタクシー乗用ドローンタクシーが並んでるはず。」


 120名の 戦士5歳児たちは薫子とエマを先頭に整然と明石駅前を目指す。


 政府も緊急対策室を設置して記者会見を行っていた。


 事情が伝わるにつれ、あちこちでパニックの様相を呈してきたが、いち早く動いた薫子たちはスカイアークタクシーが客待ちする乗り場に最初に到着した。


 「避難のためタクシー乗せてください」

 蒼が係員にはっきりという。


 「おう、いま明石市防災課からも連絡きたところだ、子供と年寄り優先だ、全員乗りな。」


 と言ってハッチを開けてくれた。

 スカイアークタクシーは乗り込んだら行き先さえ伝えればあとは自動運転である。


 幼児120名が12台のタクシーに分乗して飛び立つ。


 「イキサキヲシテイシテクダサイ。」


 「和歌山県の高野町役場まで。」


 「設定完了シマシタオヨソ40フンでトウチャクシマス。」


 

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