信じてもらえないかもしれませんが

広川朔二

信じてもらえないかもしれませんが

 土曜の昼下がりソファに横になり、うららかな春の陽気に誘われて眠りに落ちる僕。ここ数日残業続きで疲れていたこともあり思いのほか深い眠りについてしまったようだ。スマホの表示をみると時刻は深夜二時だった。


 折角の休日を潰してしまったことを悔やむ。季節の変わり目はやけに睡魔に襲われることが多く毎シーズン同じようなことをやってしまうのだ。


 なんとなく淀んだ部屋の空気を入れ替えようと窓を開けるとひんやりとした風が頬を撫でた。


 しん、と静まり返った街。いつもとは違う街の様子にこのままどこか違う世界に行けるのではないかと妄想が膨らんでいく。


 そんなことはある訳ないとはわかっているのだが衝動に駆られ家を出る。


 遠くから聞こえる車の走行音に少し湿った冷たい空気。ただあてもなく歩いているとなんだか本当に違う世界に来たみたいに感じる。しばらく歩くとコンビニを見つける。こんなところにあったかな、そんな思いがますます僕の気持ちを高揚させていく。


 ピロリロという電子音とともに入店した僕を待っていたのは、昨年のヒットチャートが流れる店内で入荷したばかりの商品を並べる気怠そうな店員。


 見慣れた光景に現実に引き戻された僕はやけに喉が渇いていることに気が付き水を買ってコンビニを後にする。こんな深夜に何をやっているのだろう。違う世界になんか行けやしないのに。


 家に帰り横になると不思議と眠気がやって来てそのまま眠りにつくことができた。そして翌朝、スマホのアラームで目が覚める。日曜日に何故アラームが鳴っているのだと思いつつも眠り足りない僕は二度寝と洒落込むことにした。


 しばらくして会社支給の電話の着信音で目が覚める。休日に一体何故? 時間を確認しようとスマホを手に取ると月曜日と表示がされていた。


 そう、信じられないかもしれないがあの夜の散歩で僕は時を渡っていたのだ。


「遅刻の言い訳は以上かな?」

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信じてもらえないかもしれませんが 広川朔二 @sakuji_h

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