お散歩と、ご褒美。 ~加害者少女は犬になる~

柳なつき

深夜の公園

 四月も終わりに近づいているが、今夜は、冷えた。


 深夜の都立公園は、ひと気がない。

 歩いていて、たまにすれ違う程度。


 この都立公園は、都心のオアシスとして有名。

 周囲をビルや繁華街に囲まれているのに、一歩敷地内に入ると、よく手入れされた木々や草花が広がっている。


 公園に入る前。

 俺は、スマホのアプリで経路を確認した。

 この公園は、出入口がいくつかある。


「行くよ」

「……はい」


 彼女は、あきらかに、脅えていた。


 広い公園を、咲花えみかとともに歩いていく。

 風が吹くたびに、木々がこすれてざわめくような音を立てた。


きょうくん……お散歩って……こうして、公園、歩くこと?」

「そうだよ。他に、散歩って何がある?」

「……そ、そうだよね」


 咲花の言いたいことは、もちろんわかった。

 散歩に行こう。

 そう言われれば――裸に、首輪。リードにつながれて、四つん這い。

 犬だから。そういう散歩を、想像しただろう。


 もちろん、本来はそうやって散歩をするべきだ。そう。犬だから。

 だが実際問題、外で裸にして四つん這いで歩かせるのは難しい。


 だから、その事実を逆に利用した。

 散歩に行くよと、咲花に言う。


 そうすれば咲花は、外で、四つん這いになることを想像するだろう。

 ……脅えるだろう。


 実際、公園に来たときの咲花の顔色は真っ青だった。

 だが。こうして、ふたりで公園を歩くなかで。

 すこしずつ、その顔色は落ち着いてきている。


 ……こうして一度、安心させておいて。

 実は、ホテルを予約してある。

 この公園を、通り過ぎたところにあるホテル。


 外での、犬としての散歩はまだしないが。

 いずれは散歩できるように。訓練を始める。

 夏休みにでも、貸別荘なんか利用して外で散歩させるのもいい。


 人間の身体で。四つ足で歩くのは、なかなか難しいらしい。

 だから。きちんと歩けるように。

 まだ犬としては幼い、仔犬の彼女を、きちんとしつける。


 ホテルに着いたら。

 いつかは、外で散歩するよと言い聞かせて――彼女を裸にして、首輪にリードをつけて。

 首輪から延びるリードをテーブルの脚につないで、彼女が泣いても、ぐるぐる、ぐるぐる、歩かせるつもりだった。


 新居に引っ越した日。

 俺は、咲花に首輪を与えた。

 どういう首輪にするか、悩んだが――結果、チョーカーにした。

 いかにも首輪、という首輪も、魅力的だったが。チョーカーはチョーカーで、昼間もつけさせられる、という点が非常に魅力的だった。


 咲花らしい、可愛らしいデザインのものを選んだ。

 白地に、ピンク色のチャームがついている。

 動くたびに、チャームが揺れるのが可愛い。

 ちなみにこのチャームは、リードもつけられる優れもの。


 商品名としては、チョーカーで。確かに外でも装着できるようなデザインだが――俺は、これを、首輪と呼ぶと決めている。


『えみ。首輪だよ』

『……わん、わんっ』


 引っ越した日。

 咲花は抵抗もせず、むしろどこか少し嬉しそうに――首輪を、受け入れた。


 その首に、俺が首輪を嵌めてやって。

 俺の飼い犬として、認めてやった。


 ――首輪をつけた彼女と。

 今晩は、俺と彼女の初めての、お散歩、だ。

 いっぱい、可愛い彼女を見たい。俺の一挙一動をうかがって、ほっとしたり、喜んだり、……打ちのめされてしゅんとする彼女を、見たい。


 そして俺が頭を撫でると、彼女は、顔を上げて恥ずかしそうに喜ぶはずなのだ――首筋を伸ばして。俺の与えた首輪を、晒しながら。

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