沈愛

@ve_ev365

第1話

平日の夕暮れ

山手線の混み合うホーム

小さな息子の手をしっかりと握りしめ、滑り込んできた電車に飛び乗る。

奇跡的に座席を確保すると、素早く息子を抱き上げて腰を下ろした。

膝の上の息子は大人しくおもちゃで遊んでいる。

「ふぅ・・・」

安堵のため息が漏れる。

夕方のラッシュ時に電車に乗るなんて何年ぶりだろう。

結婚してすぐに子供が出来て、こういう喧騒とは縁がなくなっていた。

3年前のあの頃・・・

大都会のオフィスビルで颯爽と働いていた頃の私には、確かに勢いがあった。

仕事が楽しくて楽しくて仕方なかった。

直属の上司は有能で親切で、そばにいれば誰もが恋してしまうような素敵な男性で、私は彼からずいぶんといろんな事を教わった。

恋もそのひとつ

彼に認めてもらいたい一心で必死に仕事を覚えていった。

あの笑顔で褒められ、認められて、抱きしめられる嬉しさは当時の私にとってなにものにも代え難い喜びだった。

「課長にのめり込むのは危険よ。」

同期の友人が秘密の関係に目敏く気づいて忠告してきた。

「課長は魅力的でデキる男だけど、独身主義らしいから。あの手のタイプにのめり込むと痛い目に遭うわよ!」

恋愛経験らしい彼女は、さもわかったような口を聞く。

「大丈夫よ。彼はそんな人じゃないから。」

自分でも何となくまずい気がしていたので彼女の忠告は余計に私を苛立たせた。

「もうすぐ、結婚の話も出ると思うの。だから大丈夫!」

「ならいいんたけど・・・」

納得のいかぬ風で彼女は横を向いてしまった。

そんな人じゃない・・・

私だけは特別なんだ!

今まではそうだったかもしれないけれど、私だけは違う!!

けれど、彼女の忠告は現実のものとなる。

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