じゃんけん

Sui

じゃんけんをしましょう

「じゃんけんをしましょう」

 突然声をかけてきた男の子は、帽子を深く被っていた。


 二十六歳、実家に引きこもりをしている男が、みなの寝静まった時間帯に外を散歩している姿はとても見ていられるものではないかもしれない。


 そんな散歩のさなか声をかけてきたのは、まだ年端の行かない少年であった。

 こんな小さい子供が、こんな時間帯に一人でいるなんて、何事かと思った。


「君、お母さんは? 家はどこ? 」

 反射的にそう尋ねると、しかし少年は手を伸ばして、再びこう言った。


「じゃんけんをしましょう」

 不気味に思ってしまったのは、仕方がないことだと思う。

 それでもしょうがないから、俺はじゃんけんをしてあげようと思い手を伸ばした。


 すると少年は、「あなたがかったら一万円をあげるけど、あいこだったり負けてしまったらあげないよ」と言い出した。


 俺はやはり不気味に思ったけど、とりあえずそのままじゃんけんをした。


「じゃんけん、ぽんっ! 」


 負けた。

 普通に負けた。


 俺が少々残念に思っていると、少年は再び手を伸ばして言った。

「じゃんけんをしましょう」

 俺は言われるがまま、もう一度じゃんけんをした。


 負けた。

 また負けた。


 そしたら少年が、また言いだした。

「じゃんけんをしましょう」と。


 俺は負け越していて、正直悔しかったからその勝負に乗った。


 そんな感じで十回じゃんけんをしたら、見事に十回負けた。

 正直信じられなかった。

 あいこもなかった。

 ただ、十回負けた。


 俺は嫌になってその場を立ち去ろうとした。

 そしたら少年がまた言った。


「じゃんけんをしましょう」


 その時には正直心が折れていた俺はもうしたくなかった。

 だから、「ごめん、また今度ね。それより君は早くお家に帰らないとお母さんが心配しちゃうよ。お家はどこかな? 一緒に帰るよ」と少年に言った。


 そしたら少年は「これが最後だから」と言って手を伸ばしてきた。

 俺は仕方なく、もう一度だけじゃんけんをすることにした。


「じゃんけん、ぽんっ」


 勝てた。

 よかった……。

 俺が情けなくもほっとしていると、その少年は最後にこう言った。


「勝てたね。君はいつから人生でじゃんけんをしなくなったんだい? じゃんけんはじゃんけんをしないと勝てないよ」と。

 

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じゃんけん Sui @_Sui_

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