迷い路の先は果たして何処に

神白ジュン

第1話 この道は何処に

 昔、とある町に一人の男がいた。男はいたって普通の人間であった。


 男は商人であったため、よく歩いて隣町に物を売りに行ったり、時には山や谷を越えさまざまな町まで歩いて物を売りに行ったりした。



 ある日、男は一日の商売を終え、帰路に着いた。しかし、いつもの時間よりも早く終わったため、普段は通らない回り道を散歩がてら歩いて帰ることにした。


 しばらくはなんの変哲もない道のりであったが、ふと、分かれ道に辿り着いてしまった。


 さて、どちらが正しい道であろうか考え込んでいたところ、片方の道から中々良さそうな身なりをした男が二人、歩いてくるのが見えた。


 なるほど、中々良い身なりをしているということは役人か何かに違いない。そのような身分の人間が廃れたような道を歩くはずがない、こちらが正しい道であると考え、そちらに進むことにした。

  

 すれ違う時に会話が少し聞こえたが、何を言っていたのかは全く聞き取れなかった。


 

 気がつけばあたりは暗くなっており、月の光が進むべきであろう道を差し照らしていてそれはとても神秘的な光景であった。


 だが月の光を道標にひたすら歩くが、中々町には辿り着けなかった。どうしたものか、途中で間違えてしまったのかと困り、道端に座り込んでしまった。


 するとその時後ろから一人の男性が自分を追い越して歩いて行った。


 はて、足音も何も聞こえなかったが、自分の後ろにも歩いていた人はいたのだなと思い、よし、もうしばらく歩こう、と思った。するとまたしても一人、自分を追い越していく人が現れた。


 「すみませんこの道はどこへ続いているのですか?」

 今度こそと思い男はそう尋ねたが、返答が返ってくることはなかった。


 そしてそこで男は妙な違和感に襲われた。先程、最初に追い越して行った男性と格好が同じに見えたのだ。だが、背丈や歩き方は多少異なって見えた。なお、今度も足音には気がつかなったが、気にもとめなかった。


 だが悩んでも仕方がないと思い、進むことにした。歩いている人がいる以上この先に道は続いているはずだと、男は思ったからである。


 気づけば辺りは真っ暗で、月の光すら全く届かないような場所まで来ていた。


 

 おかしい、おかしいと思い、急に足が進まなくなってしまった。


 すると今度はどこからか、何らかの音が鳴り響くのを聴いたので、藁をもすがる思いで、その音を頼りに進んでいくのであった。




 暗闇をひたすら進む。すると、いきなり大きな宮殿を携えた街のような物が現れた。


 男は今度こそ腰を抜かしてしまい、動けなくなってしまった。


 しばらくそれを眺めていると、先程自分を通り越して行った者と同じような格好をした者たちがぞろぞろと街へ入っていくのであった。


 

 恐る恐る街へと近づいて中を見ようとした時、入り口に立っていた門番のような男に見つかった。




 「お前はまだここに来てはならない。」



 その門番はそれだけ言い、男の体をくるっと反対へ向けさせ、


 「さぁこの方向へ走れ。」と言い放った。



 男はなにかとんでもない所は来てしまったのだと思い、大慌てで走って反対方向へ走っていった。


 道中ですれ違う者のことなど、誰一人気にも止めなかった。



 全力で走った。

 これ以上は走れない、と思って肩で息をし、ふと見上げると、そこは男が出発前にいた町であった。


 

 かくして、次の日男は無事家に帰れたのだが、二度と散歩がてらの寄り道をしなくなったそうだ。


 



 

 


 




 

 

 

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迷い路の先は果たして何処に 神白ジュン @kamisiroj

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