第26話 兎娘が穴を掘り、アリス嬢穴にハマる
「死体が半分入れ替わっていた?そんな所に、ワトソン君を置き去りにしてきたのか!」
私が詰め寄ると、モリアーティが悲鳴を上げた
「俺のせいじゃないよ。五代目がホームズさんなんか呼ぶから、こんなことになったんだ。探偵の行く所、事件が起こるのがミステリーのお約束なんだから」
モリアーティの責任逃れ発言に、五代目が怒った。
「そんなこと言ってる場合じゃない! 早く初代を助けなきゃ」
「ス、 スマン。ワガハイ ノ ミスダ。スコシ ヤスンダラ ホール ヲ ヒラクカラ マッテクレ」
「待って! 珊瑚のホールは早いけど、すぐ閉じちゃうし、次のホールを開けるまで時間がいる。私の掘る穴なら、掘るのに時間はかかるけど安定してるわ。
でも、私は“記憶”でしか場所を正確に特定できない。だから、珊瑚が私に匂いの方向を教えくれて私が穴を掘れば、見つからないように逃げられる穴を掘れると思うの。
初代のワトソンさんがいてくれたから、私は五代目に会えたの。恩返ししたいのよ」
兎娘のビオラが決意を込めてそう言った。
「ありがとう、ビオラちゃん。珊瑚君もやってくれる?」
五代目が頼む。
「モチロンダ ハニー ト ハツ ノ キヨウドウ サギョウ ヲ コトワル モンカ」
兎娘は、マザーに体をウサギに戻してもらって、穴を掘り出した。
「コッチデ イイノ?」
「モット ミギダ。 アフン、イイニオイ」
「チョット! カッテニ ヒトノ オシリ ノ ニオイ カグナ」
「ギャア!」
穴の中から、時々黒兎のやられる音が響く。気の毒にまたハゲが増えるな。
「チョット マテ、 ウゴイタ」
「エエ? ドウスルノ」
「ヘヤ ヲ イドウシテ イル……トマッタ。モウスコシ ヒダリ ソコダ ウエ!」
「ツイタ! ミンナキテ」
兎娘の声に、小さくなったマザーと私とモリアーティが穴に飛び込んだ。五代目は、留守番になった。
◇
穴の口から眼だけだすと、目の前に、ワトソン君の足が二本。どうやら留置所のベッドの下に出たようだ。
看守が部屋に鍵をかけて去っていく。足音が遠のいたところで声をかけた。
「ワトソン君、こっちだ!」
私の声に二本の足の間から、逆さまの彼の顔がのぞく。
「ホームズ! 来てくれたのか」
マザーが杖を振り、たちまち小さくなったワトソン君が穴に滑り込んだ。
急いで兎娘が穴を塞ぎ、穴の中を五代目の家に向かう。
「事件はどう進展してる?」
私の問いにワトソンが答えた。
「正直に見たことを話した、賭けのことも。それで、ピエロが今別室で取調べを受けてるが、完全黙秘で『僕がお姉ちゃんを殺したんだ』以外は一言も喋らないそうだ」
「死体を交換したのは、多分ピエロだ。もう一人の死体が誰で、どうしてそんな事をしたのかが謎だな」
「やるのか、ホームズ」
「当然だ、このままでは君に嫌疑がかかったままだしな。穴を掘るのに随分時間がかかってしまった。もう少しで夜も明ける頃だ。兎娘、サーカスの方に横穴を掘れないか?警察が動き出す前に少し調べてみたい」
「ワガハイ サーカス ニ イッタ。バショ ワカル ゾ」
黒兎が鼻息荒く迫り、兎娘に蹴り飛ばされた。
「アナタ ハ ダメ! ワトソンサン モ ポマード ツケテル。 モリアーティクン アタマ ダシテ」
そう言って、兎娘はモリアーティの頭に飛び乗った。相変わらず頭の選り好みが激しい。
「ワカッタ!」
兎娘は穴を掘り出した。
「兎を頭に乗っけた感想は?」
私の問いに首をさすりながらモリアーティが答えた。
「首が折れるかと思った。でも、女の子に“重い”なんて言えないから……」
「それでこそ紳士というものよ。そのうちまた、サンドリヨン似の素敵な娘に出会えるわよ。私が請け合う」
「そ、そうかな?」
マザーの言葉にモリアーティはちょっと赤くなっていた。
「大丈夫。私は“つがい屋”と呼ばれたスーパー仲人よ。縁結びのプロなんだから」
「そうとも、恋も結婚もいいもんだよ」
ワトソン君には、尻に敷かれるのも幸せのうちなのだろうな。
「イマ サーカス ノ ライオン ノ シタ。 トナリガ ピエロ ノ トレーラー ヨ」
兎娘は掘り疲れたのか、肩で息をしていた。
「ツカレタロウ ハニー。ウエ ノ ミチハ ワガハイ ニ マカセナ」
「アリガトウ、 アナタ イイトコ アルノネ」
兎娘の言葉に、黒兎は大張り切りで土を掘り出した。
だが、最後のひとすくいの土を掘った途端、悲鳴とともに穴に女の子の片足が、太腿まで入ってきて、黒兎を踏んづけた!
「イタイ イタイ タスケテー!」
黒兎が悲鳴を上げる。トコトンついてない奴だ。
「な、なんでこんなとこに穴が? 抜けないー」
「あれ、その声サーカス団長のお嬢さんのアリスさん?」
モリアーティがさけぶと女の声が返事した。
「その声、地主のモリアーティさん! えぇ? なんで穴の中から声がしてるの?」
「いやその、ちょっと込み入った事情があって――君、足抜けそう?」
「だめ、ガッチリはまっちゃってる。一人じゃ無理」
「ハヤク アシ ノケロ イタイー」
黒兎が悲鳴を上げた。
「仕方無い。アリスさん、ここで起きる事、絶対秘密にすると約束できる?約束するなら助けてあげるよ」
「もう、一人じゃどうにもならないんだもの。約束でも何でもするわよ、早く助けてー」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます