第24話 隣の芝生は青かった
「俺も若気の至りだよーだ。
俺、昔B・B似の彼女に振られてから人生狂い出したから、もしそっくりな彼女とうまく行ったら、僕もきっと違う人生を歩めると思ったんだ。
本当はB・B本人にアタックしようと思ってたのに、金持ちのCEOと結婚決まっちゃったから、偽物でいいからそっくりさんのアイリーンに申し込もうと思ったのに。 デートに誘おうと思った日に、目の前で死んじゃうんだもの」
「……ついてなかったな」
「そうなの。僕の言霊能力、自分には使えないんだよ。凄いけど、なんか役に立たない能力なんだ。やっぱり木曜日生まれの子供は道が遠いよ(*注1)」
君のせいで苦労が絶えない気の毒な五代目は、きっと土曜日生まれなんだろうな。
「神は乗り越えられない試練は与えないと言うぞ。君のなりたいものが“良い子”ならそうなる努力をするべきなんじゃないのか?」
「してるよ。でも、いつも予想もつかないことで失敗しちゃうんだ。決して悪気があったわけじゃない。ほんとなんだ、僕はみんなを喜ばせようとしただけなんだよ。
なのにホームズさんは倒れちゃうし、ビオラちゃんをティンカーベルにしたのだって、五代目が喜ぶと思ったのに失敗だったし、楽しいはずのサーカスでは目の前で人が死ぬし。
あーあ、今日した良いことは、アイリーンのお墓作ってあげる約束した事くらいだよ。俺、せっかく生まれ変わってやり直したいのに、思ってたのと違うことばっかり。どうしてなのかなぁ」
「思ってたのと違うか……『人間は“思ってたのと違う”とびっくりするために生きてるんだ』と言った人がいたよ。良かれと思ってしたことがうまくいかないのは、運もあるが、先入観でちゃんと相手のことを見てなかったからだぞ。
五代目がなぜ兎娘と結婚する気になったか知ってるか? 背が低かった頃の自分を好きだと言ってくれた唯一の女の子だったからだそうだ」
「もしかして、五代目は背が高くなったの嫌だったの? 女の子にモテモテで喜んでると思ってたのに」
「それどころか兎娘が五代目に会いにきた時、デカすぎて怖がられるわ、女の子に囲まれてるわで、危うく振られるところだったと嘆いてたぞ」
「うわー、なんでうまくいかないんだよ……俺って最低」
「まあまあ君に悪気がなかったのは五代目も知っているよ。ただ、五代目にとって生涯の伴侶を手に入れるのに、背の高さは関係なかったんだ。
背の低いのがコンプレックスだったのは本当だし、背が高くなったからこそ本当の気持ちに気付けたと言ってたしな。君は五代目がいい子だと思うか?」
「思う。一緒にいると安心できるし、困ったときにはいつも助けてくれる。あんな風になりたい……俺が持ってないものを持ってる五代目がうらやましいよ」
隣の芝生は青い。お互い相手の持っているものが羨ましいとはな。
愛情とか思いやりと言うものは、本人が十分にもらって満たされて、初めて誰かに分けてやれるものだ。相手に自分の考えを押し付けるだけでは、人のために何かやっても、ろくな結果にはならない。どうもモリアーティは、思いやりの本質というものがいまいちわかっていないようだ。ご両親が早くに亡くなったせいかも知れない。
「五代目がいい子だと思うなら、お手本が身近にあるんだ。そこから時間をかけて学ぶんだな。まあ、今回のワトソン君を偽の賭けで騙したのは、良い子とは言い難いが」
「そう、初代のワトソンさんを騙すのに話を合わせてくれって頼まれた時は、ちょっと驚いた。やらせなんて五代目らしくないからね。
でも、それだけ真剣なんだと思ったから協力したんだ。だけど、初代も黒兎も納得してないみたいだから、ダメ押しに僕も賭けを持ちかけたんだよ。
あの賭けは多分僕の勝ちだね。アメリカ女性のブロンド率は確か13〜16%くらい(*注2)だってきいた。アメリカのブロンド女はほぼ偽物さ。
B・Bは、正真正銘のプラチナブロンドだけど、そんな娘例外だから」
「多分? 答えを知ってる訳じゃないのか! もし本物で君の負けなら、黒兎を応援する気か」
「もちろん。それじゃなきゃ賭けとは言わないよ。俺は五代目と違って、勝ちの決まってるやらせの賭けなんてしません。もし僕が負けたら全力で邪魔しちゃいます。
だってさ~五代目の奴、俺との男の友情を捨てて可愛い兎の女の子とイチャイチャしてさ、俺にはデートの相手もいないのに。腹立つじゃない?
ちょっとくらい嫌がらせしたって良いんだよーだ。」
「おい、君の場合ちょっとで済まないんじゃ……」
マズイ、モリアーティのやつ親友をとられて怒ってる。
******
(注1)マザーグースです。
月曜日生まれの子供は器量よし
火曜日生まれの子供は、たいそう気品があり
水曜日生まれの子供は悲哀でいっぱい
木曜日生まれの子供の道は遠くて(苦難の道を歩んで)
金曜日生まれの子供は、慈愛の心に満ちている。
土曜日生まれの子供は生きていくなかで苦労が多い
あなたは何曜日生まれ?
(注2)昔、テレビでそのくらいだと言ってました。記憶なので違っているかもしれません。
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