ブッコローの恋
たこはる
第1話
「面白い本があるから紹介したい、て話じゃなかったか」
友達のミミズク、リブローが遠慮がちに言った。
それでも僕は、リブローの広い応接間で黙々と紅茶をすすり、「あぁ、春だなぁ」なんて中庭の桜を鑑賞するだけで本のほの字も発さずにいた。
「なぁ、ブッコロー、男二人だけだ。話せよ」
ここまで迫られると、それはそれで話しづらいが。
「──実はな、可愛いフクロウを見つけてしまって」
「またか!勿体ぶって話すようなことか」
「最後まで聞いてくれよ、今回は本気だ」
リブローはまたいつもの事だ、というように一気に興味を失ったようだが、気にせずに先日のことを話す事にした。
春の日差しを感じられるようになり、僕はやや遠出をしようとアズマーン領の境まで羽を伸ばした。緑豊かと噂のハチオーデの街に行こうと思い立った。この時期のタ・カオー山が素晴らしいという話もリブローから聞いていたしね。
この時は観光もしながら、リブロ―への土産話はどうしようかとのんきに考えていたんだが、ところが、どこで道を間違えてしまったのか、深い森の中に迷い込んでしまった。
しばらく飛んでいくと、切り株に座って人間に本の読み聞かせをしている彼女を見つけたんだ。身振り手振りで一生懸命に本を読み聞かせしている仕草が可愛くてね。羽をパタパタさせながら、羽根があちこに舞うのもお構いなしさ。
あの切り株が彼女の店舗なんだろうね、とにかく頑張って仕事をしていたよ。仕事を邪魔しちゃいけないとその日はそのまま帰ってしまったんだが、帰ってから名前だけでも聞けばよかったと今日まで後悔しているという訳さ。
「店舗を持っているなら僕たちと同じ貴族フクロウなんだろうね」
「そうなんだよ、アズマーンなら君の方が詳しいだろう?僕はカナガーからあまり出た事がないんだ」
「アズマーンで森が深い所と言うと、ダマーチだろうか」
リブロ―は少し興味を取り戻してくれたようだ。
「ダマーチの貴族フクロウで、かわいい。となると、ヒサミかな。ヒサミ・ドゥ」
「ヒサミ・ドゥ」
僕は脳みそに刻み付けるために復唱した。
「ドゥ家は店舗数は10店舗に満たないはずだ。言っちゃあ何だが、40店舗の君の家には釣り合わないよ」
「そんな事を言うなよ」
「大体だよ、君にはジュンという婚約者がいるだろう」
「それこそ不釣り合いというものだ。彼女から直接持ち掛けてきたけど、青天の霹靂というか、なんというか」
ジュン・クド・マルゼ。店舗数80超えの上流貴族様。何を考えてるのか分からないし、僕との結婚についても「面白そうだから」という理由だそうだ。
「何が不満なんだ。可愛いし、大貴族様の仲間入りだぞ」
「家柄は勿体ないくらいだけどさ」
そんな事よりも、と僕はつづけた。
「なぁ、ヒサミを紹介してくれないか」
「僕だってそこまで仲がいいわけじゃないけど―—あ、今度、アズマーンの貴族たちの社交界があったな」
「それだ!そこに僕も連れてってくれよ」
「キノクニーの主催だぞ、大丈夫か」
アズマーンの大都市ジュクシンに旗艦店を置く、超が付くほどの大貴族様だ。そして、ジュンに婚姻を申し込んだが振られたと噂されている。理由はたぶん、僕。
「べ、別に僕はやましくはないさ。とにかくキノクニー様に、僕も招待して欲しいと頼んでくれよ」
「断られるだけだと思うけどね」
ところが、すんなりと僕の元に招待状が届いたから僕も驚いた。
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