夜の生き物
金谷さとる
ナニカ
夜の街は昔、ボクらの支配下だった。
今。
今は夜でも眩しすぎてボクらの居場所がどんどん減っていっている。
そっと暗がりを探して縄張り強化を兼ねた散歩を続ける。
「見つけました。ねぇ、君お仕事してみませんか?」
そんなふうに声をかけてきたのはニンゲンに見えるナニカだった。
仕事?
口元であろう場所が弧を描く。黒い縁のついたガラスの目が光る。
「空間を繋ぐお仕事です」
躊躇いはあった。ボクにはナニカが信用できるかわからない。
「あれ、オーナーさん。調子でも悪いですか?」
馴染みのいい声にオーナーと呼ばれたナニカはガラスの目をそちらにむける。
「いいえ。小さな生き物がいましてね」
「へぇ、逃げちゃってないですか?」
逃げたい気もする。逃げたくない気もする。
「どうでしょうね」
ナニカの指は差し出されている。
「あ。子猫ですね。かわいいなぁ」
甘やかされるような声にボクは猫になる。
「親猫はいないのかな? えっと、地域猫じゃなくて野良?」
慌てたようにいい声がボクを心配している。
「では、保護してウチで様子を見ることにしましょう。タイくんも様子を見れますよ」
「オーナーさん、お店で猫って大丈夫ですか? 家族に相談してもいいんですが」
ナニカじゃなくていい声のそばが……。
きゅっとボクはナニカに確保された。
「すみません。夜遅いんですが、店まで付き合っていただけますか?」
「あ、はい。その子、おれが抱きましょうか?」
「いいえ。お店を開ける時お願いしますね」
ナニカといい声は雑談をしながら歩く。ナニカがボクにくるりとまとわせた布がギラギラとした眩しさからボクを守る。いい声の視線からも隠されているので猫の姿をとらずにいられる。
いい声に心地好くうとうとする。
気がつけば、いい声はおらず、ナニカだけだった。
「寝ちゃうからですよ。彼、専属のアテンダントに今ならなれますよ。彼が選んでくれるかはわかりませんが」
夜の生き物 金谷さとる @Tomcat
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