信じたい

横山佳美

第1話

ー プロローグ ー

 12月25日。「本当に欲しいものは、わからない。」

この日の為に、絞り出した欲しいものは、

本当に必要かどうかはわからない。

けれど、手に入れることができたら、私は満たされると信じ込む。

この日に向けて、日々、欲しいものへの執着を募らせるも、

「もしも、手に入らなかったらどうしよう。」という

不安も一緒に募らせる。


私は、この日が嫌いだ。


 腹黒い欲と恐れを持ちながらも、

純粋で汚れのない子供のように、この日の奇跡を信じている。

こんな矛盾した私を満たしてくれるものは、存在するのだろうか。


この日さえ、来なければ、私の心は無駄にかき乱されことなく、

満たされていない私に、目を向ける必要だってなくなるのに。


 『信じるものは救われる』と勘違いさせる今日という日は、

逆に変わらない現実を苦しく見せるだけの残酷な日。


 私を満たしてくれないサンタクロースは幻で、

こんな日に生まれた私は、偽りの愛しか愛せない。




ー クリスマスパーティー ー

「おっ邪魔しまぁ~す。」


「雪降ってきたよ~!ホワイトクリスマス~!」


「積もったらどうしよ~。帰りの電車、止まっちゃったりして〜。」


「アハハ、ハハ~。」


 騒がしい女子高生のノリが抜けない、

浮かれた女たちが続々と入ってきた。

一足先に着いていた私は、

さっきコンビニで買ってきたおかずを、

一人暮らし用の小さなローテーブルにひっそりと広げていた。


 この1LDKには、いかにもアラサー女子が好きそうな白を基調にした家具たちと、おしゃれなキャンドルやドライフラワーも飾っているが、

積もり積もった埃が全てをグレーにしている。


「座って、座って~!さぁ、みんな、そろったし、乾杯しよ~。」と、

この部屋の住人でありパーティーの主催者であるミチルが、い

つも通りにこの場を仕切る。


決して一人暮らしには狭くは無いはずのこの部屋は、

不必要としか思えない物に占領され、座る場所さえも見つけられない。

二人がけ用のソファに堂々と座っていたパンダのぬいぐるみを持ちあげて、部屋をキョロキョロと見渡していると

「適当にその辺に放り投げといていいよ。」と、ミチルに言われたが、

放るわけにもいかず逆に困り果て、抱き抱えたままソファにやっと座った。


優柔不断の私に「はぁ~。」と深いため息をついてから

「20代最後のクリスマス、みんなと飲めてサイコー。独身サイコー。

そして、ノブコ、誕生日おめでとう!カンパーイ!」と、

しばらく使っていなかったことが見え見えの、

シャンパンの気泡も見えない、曇ったシャンパングラスを

ミチルの音頭でテーブルの上で勢いよく合わせた。


ミチルはここに集まった高校女子サッカー部のキャプテンだった。

昔から姉御肌で、はっきりした物言いと誰にも意見させない瞬時の決断力で、人を従える力があった。


鶏の唐揚げを口いっぱいに頬張ると、ミチルはクチャクチャと噛みながら、


「サキは彼氏と今頃イチャイチャしてるんだろうね。

クリスマスパーティーに来るって言っておきながらドタキャンとか最低。

サキは友情より男を取るオンナなんだよ。みんな騙されたらダメだからね~!アハハ~。」と、人を馬鹿にしたように笑いながら、

「特にアンタね。」と言わんばかりに箸で私を指した。




*このストーリーはフィクションです。

最後まで、読んでいただきありがとうございました。

続きもお楽しみに!

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