叔母ちゃまと,お散歩♪(月光カレンと聖マリオ15)

せとかぜ染鞠

第1話

 爆弾過激犯の四宮しのみや尊徳たかのりが死んだ。

 四宮は俺の日記を売った大学生だ。そして俺の正体を知っていた。俺さまは怪盗月光カレンで,シスター聖マリオでもある。

 カオス状態に沈む思考回路に疑念や悔恨のおりが堆積しながら焦燥の核を結んだ。四宮を調べなければ。

 修道服からなめしの革ジャンとパンツに着がえ,数千の墓標に紛れる教会を抜けだした。

 手の届きそうな位置に満月が微笑む。血が疼いた。皓々たる青光を浴びて咆哮をあげる。最高だぜ!

 はて? もう一つの雄叫びが混ざりあい……

 カレンの宿敵で,マリオの信者でもある三條さんじょう公瞠こうどう巡査が上体を反らせていた。記憶障害のせいで7歳児に戻った三條は俺を叔母だと思っている。「深夜のお散歩,僕ちゃんも行く!」

 夜話を聞かせて寝かせたつもりが,無駄に終わった。三條に怪盗のお勤めも尽く邪魔されてきた。記憶障害の有無に関係なく常にこいつは俺の桎梏なのだ。

 瞳を輝かせ,跳ねまわる7歳児に嘆息が漏れた。

 四宮の部屋へ侵入するのは後日だ。

「ねえ」手を握られる。「あのお兄ちゃんが天国へ逝けるようお祈りにいこ」

 アパートの外観ぐらいは下見しておいてもよいか。

 岸につけた高速艇に飛びのって一気に加速する。波の狭間を紡錘形した銀の生きものがジャンプしながら並行する。馴染みの鮫たちだ。出番はないかとれる無数の喉音に,またねと心中で答えた。

 プレハブ長屋と表現するのが適切なアパートまえで老夫婦と擦れちがう。

 お散歩ですか。うちもです。あたたかくなりましたね。御機嫌よう。

 たわいない言葉を交わし去っていく彼らが,若い人の自由を謳歌できる時代になったと頷きあって腕を組んだ。

 手を繫ぐ三條が桃色の両頰で猫みたいにまとわりついていた。これじゃ誤解されるわな。

「違う,誤解だぁ! 何も知らなぁい!」叫喚が夜をつんざいた。

 寝巻き姿の女が逃げだしてくるなり「うちの人が刺された!」と中国語で助けを求めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

叔母ちゃまと,お散歩♪(月光カレンと聖マリオ15) せとかぜ染鞠 @55216rh32275

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ