第2話 いばラッキー
私がどのようなところに住んでいるかというと。
少し古いが、吉幾三というシンガーソングライターが歌った『オラ東京さ行くだ』の歌詞の八割くらいが該当する、と申し上げれば大体の想像がつくだろう。
自動車で近辺を走れば、行けど進めど田、田、田。まあ、緑の色は目の保養に良いと聞く。しかし秋に稲を刈れば、この上なく、うら寂しい……。
「大江戸は広い。四川七町八百八町」なる言葉があるが、私の住む茨城県南の広さは、これとはまた異質の虚無的な広さである。もうハッキリ言いきってしまえば「ド田舎!」だ。
良いところを挙げろと言われたら……人とぶつからずに往来は歩けるっつうぐらいだ。
別に極端に自虐に走っているわけではなく、事実なのである。「場所を見ること住人に如かず」だ。
文化果つる街に住んでいる。平成の大合併によってついに、街に書店ができたと! と思ったらわずか一ヶ月でその書店はアダルトDVD 店に変貌を遂げた。映画館もない。エトセトラ、エトセトラ……。
将来有為の若人達は皆上京してしまった。この地に留まるのは私のような世捨て人、 隠遁者、などなど。
それにしても不思議である。茨城県は、首都東京から列車で三十分の短距離である。山・川・湖・海に恵まれ、自然災害が少なく温暖。人々が居住できる広大な平地が広がっている。それだのになぜ、このような鄙びた様相を呈しているのか。
私は長年の研究の末、以下の結論に行き着いた。
「鬼門」が原因であると。
鬼門とは方位学の中でも重大視されてい、北東の方位をいう。古い時代、奈良・京都あたりを中心として、北東は蛮族の根城であり、地理的に恐るべき方位であったそうな。江戸時代も、徳川家は、江戸の街の北東にあたる場所に寛永寺を建立し、鬼門からの邪な気の侵入を防いだそうである。
寛永寺から、さらに北東に進むと……茨城の私の家である。東京を中心とする現代日本において、私は蛮族なのか? 多くの同輩が上京していったのも、鬼門から逃れるためだったのか?
しかしながら、この地を鬼門とする考えは、歴史的事実からも正当性があると言ってよい。
時は平安時代、ベンベン。下総国(千葉県と茨城県の一部)に生を受けた桓武天皇の子孫である平将門は京都に出て出世を望んだが叶わず帰郷、ベンベン。将門は、その後、朝廷に反乱を起こしわずかの間に関東の大半を制圧、ベベベン。なんと「新皇(しんのう)」を名乗って政治を始めた、ベンベン。結果的に将門は、関東武士の平貞盛・藤原秀郷にらに討たれたが、ベン。斬られた将門の首は都を飛び立ち、遙か北東の、現在の地名だと東京大手町。そこに着陸、ベンベン。しかもその「首」は、三日三晩のあいだ叫び続けたそうな。ベンベンベンベベン。
……何とも得体の知れない話である。しかしこのエピソードは、この地方のやるせなさを暗示している。私は老親の住む一戸建ての二階に自室を構えている。「二階に厄介になっている十戒のモーゼ」なんて少しウマいことを言っていた落語家がいたが、はて誰だったか。
窓外に目をやると、一面にゴルフ場が見渡せる。そこでは、暇なのか忙しいのか分からない連中のヘボゴルフが展開されている。
「ナイスショット!」
この言葉を彼らは一生のうち何遍叫ぶのか。実に耳障りだ。球を打つ瞬間に爆竹を鳴らしてさしあげようかしらん。そしたら彼らは「ビックリ・ビビンバ・ビートルズ!」などと驚くだろうか。
驚きなさい。泣きなさい。リズムよく「ビックリ・ビビンバ・ビートルズ! 大化の改新・ ボルビック!」 と叫べ!
「くわっ! くわっ! くわっ!」
隣の家に引き籠もっている高校生の高笑いが聞こえる。天気の悪い日には間違いなく呵呵大笑。変な病気にでもカカっているのか。まあ、私も高校時代はそんなものだったが。「くわっ、くわっ、くわっ」の笑い声は、静寂を破る山鳥の鳴き声の如きであるので、それほど気にはならぬ。自然に内包されているのだ。
……日本の未来は……世界が嫌がる……。
私の住む街には、ゴルフ場が四つもある。イヤん! いらん!
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