第45話 30層攻略
『モーニング☆スター』とのコラボ配信は中々好評だった。
コラボ配信は向こうのチャンネルで行ったが『3ch』の方の登録者数もかなり増えた。
【現在のチャンネル登録者数:60万人】
そして私のXwitterも炎上しなかった。
セーフ!
やっぱしつこいくらい「炎上は嫌だ」と繰り返したのが良かったんだろう。
私も大概Xwitter廃人だから、Xwitterが燃えたら泣いてしまうところだった。
「起きたらとにかくXwitterで起床報告っと」
"ハローワーク!!!!"
うむ、朝の挨拶、ヨシ!
"おはよう!"
"おはようサン!"
"何でハロワ?w"
"【朗報】サン、ついにニートを脱却"
Xwitterのフォロワー数も増えて、
わざわざXwitterまでフォローしてくれてる人達なので、配信中のコメントよりも穏やかなリプが多い。
ありがたいことである。
1個1個リプ返とかは…面倒だからしないけど…。
トーストと目玉焼きを食べつつ、美愛さんにRINEをする。
[おはようございます]
[今日も20時から品川ダンジョンに潜るつもりですが予定大丈夫ですか?]
メッセージを送信するとすぐに既読マークが付いた。
[大丈夫!]
[今日も20時?]
[日曜日だけど?]
あ、今日日曜日か…。
ダンジョンは年中無休なので専業探索者の曜日感覚はバグりがちである。
[平日だと思ってました]
[じゃあ早めに17時くらいから始めますか?]
送信するとまた一瞬でOKの返事が飛んできた。
(…私から誘っておいてなんだけど、そんな簡単に休日の予定決めて良いのか?彼氏いるのに…)
ちょっと思い返してみたが、美愛さんにダンジョン探索の誘いを断られた記憶がない。
かなりの頻度でダンジョンに潜っているし、休日も私といる時間結構長いんだけど…。
「大丈夫なんだろうか…美愛さんの彼氏さん…」
…とりあえず、Xwitter更新しよ。
"今日の配信はいつもより早めの17時からの予定です。山登りも飽きたのでそろそろ31層を目指します"
Xwitterに配信告知を投げ、午前のうちに家事を済ませ、昼寝をし、おやつにコンビニで買っておいた1個350円のシュークリームを食べてから、万全の状態で『品川ダンジョン』に向かった。
1層からショートカット階段を降りて26層に出る。
そしてドローンを飛ばしてから、配信開始ボタンを押した。
「えー、映像、音声等大丈夫でしょうか?」
〈きたー!!!〉
〈生きがい〉
〈始まった!〉
〈大丈夫です!〉
「新人ダンジョン配信者のサンです」
「ミアでーす!」
「今日も下層攻略で、そろそろ31層の雪フィールドを見に行きたいなと思ってます」
〈下層攻略把握〉
〈てかまだ新人なのか…?〉
〈新人とは〉
〈まだ配信始めて2ヶ月だし新人でええやろ〉
〈随分濃い2ヶ月だなあ〉
「もう2ヶ月か…早かったような…短かったような…」
「どっちも早くない?」
「うん。流石に色々起こり過ぎました」
本当はもっとゆるゆると…企画とかを中心に配信していくつもりだったのに、どうしてこんな駆け足攻略になってしまったのだろうか?
…運24のせいか(自己解決)。
「まあ、最近は比較的落ち着いているし、今日も多分何も起こらないでしょう!」
〈はいフラグ〉
〈これはまた何かあるわ〉
〈一級フラグ建築士〉
〈転移罠かスタンピード好きな方を選んでいいぞ〉
〈サンちゃんだけなら90層行きの転移罠踏んでもギリ生還できそう〉
「下行きの転移罠ってショトカの役割もあるからか上層にしかないんですよ。つまり下層は上層より安全」
〈お前は何を言っているんだ?〉
〈下層って安全だったのかあ〉
〈超理論やめろ〉
〈でも運24だと割とマジでそうなるのかもしれん…〉
〈今から上層に戻って未発見転移罠を探す配信にしないか?〉
いやでーす。
26、27、28層は戦闘控えめで『透視』も使い、階段まで最短ルートで進んだ。
「わー!景色凄っ!」
「これが有名な『29層の頂上階段』か…」
階段を降りた先は狭い洞穴の中だったが、3歩進むと山の頂上に出て、眼下には絶景が広がっていた。
〈絶景だな〉
〈超広いじゃん〉
〈向こうに海あるくね?〉
〈ダンジョンってやっぱ異世界に繋がってるよな〉
〈結界張ってあるから1km先までしか行けないけどな〉
〈結界の先の景色は映像が投影されてるだけっていうホログラム説もあるぞ〉
〈幻覚か〉
〈いつから幻術を使っていないと錯覚していた?〉
「ここのボスって何だっけ?」
「ハーピーですね。女性と鳥が合体したような魔物です」
〈うおおおおハーピーちゃんきたああああ!!!〉
〈ハーピーって可愛い?〉
〈ブスやで〉
〈ほなええわ〉
うーん、この畜生コメント欄。
うちの配信に帰ってきたって感じがするね。
山頂は見晴らしも良かったので、早々に『透視』を使うことにした。
「おや?」
「どうかした?」
「ハーピー見つけました」
「早ー」
「でも先客がいます」
「誰かが先に戦ってるってこと?」
「しかも、知り合いっぽい」
〈知り合い?〉
〈誰だろ?モーニングスターか?〉
〈またコラボか〉
〈他にコラボしたことあるのは…武蔵?〉
〈武蔵が29層でハーピーと戦ってるわけないだろw〉
私達は急いで山を降りてハーピーの所へ向かった。
「KIEEEEEEEEEEEEEE!!!」
「お、断末魔」
「あー!万堂さんだー!久しぶりー!」
「ん?ああ、あんたらか」
ハーピーと戦っていたのは万堂さんだった。
スタンピード以来だから2週間ぶりくらいか。
「私達今日中に31層目指してるんですけど、もしかして万堂さんもですか?」
「まあな」
「じゃあ一緒に行こうよ!」
「まあ、構わねえけど…」
というわけで急遽3人パーティーになって先へ進んだ。
ハーピーは万堂さんが倒してしまったし、30層行き階段も近くにあったので、さっさと30層に出た。
「ワイバーンだ!」
30層は今までのボスモンスターが一般モンスターとして出てくる魔境だった。
「美愛さん魔法で足留めを!」
「火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」
「バウンド!一閃!」
「アースブレード!」
「GYAOOOOOOOOOOO!!?」
しかし私達も相応にレベルアップしていたので特に苦戦することもなかった。
「ナイスー!」
「おつです」
「ドロップは魔石か」
「やっぱり万堂さんがいると頼もしいね!」
「そうですね」
「世辞なんかいらねえよ」
「いや本当に本当に」
『モーニング☆スター』とのコラボでも思ったが、硬い前衛が1人増えると戦いやすさが段違いだ。
私と美愛さんでダメージを与えて、弱った魔物の攻撃を盾で受けながら万堂さんが接近してトドメを刺す。
こういうムーブができるようになると私としてはめちゃくちゃ楽だ。
『一閃』を使えば別だけど、短剣1本で相手を削り切るのは結構大変だったからなあ。
「万堂さん、本格的に私達とパーティー組む気ないですか?」
「ない」
「えー何で!?」
「俺が配信者なんかできるわけねえだろ」
「大丈夫!万堂さんイケメンだし!一緒に探索しようよ!」
「断る」
「みんなで探索した方が楽しいよ!」
「しつけえ…」
万堂さんは頑なだったが、美愛さんも相当しつこいぞ。
ゴリ押しに負けてパーティーを組むことになった私が言うんだから間違いない。
(よし、勧誘は美愛さんに任せよう)
その間、私は索敵とコメント対応に専念することにした。
〈モーニングスターの時はパーティー組むの断ってたのにええんか?〉
「万堂さんと組んでも私のXwitterは炎上しないだろうからOK」
〈男が増えたらそれはそれで炎上するのでは?〉
〈その場合炎上するのは万堂さんのXwitterだから大丈夫だろう〉
〈何が大丈夫なんだ…〉
〈男1、女1、性別不明1でバランスは良いな〉
〈ミアちゃんが俺以外の男にくっ付いてる…〉
〈脳みそぶっ壊れそうだけど同時に興奮もしている〉
〈性癖壊れちゃったねえ…〉
〈イェーイ、ミアちゃんの彼氏君見てるー?〉
〈やめろぉ!〉
〈爆笑〉
〈人の心とか無いんか?〉
30層の階層主は『天狗』だ。
推奨討伐レベルは35。
空を飛び、
「見られてますね。奇襲無理そうなので、美愛さん先制攻撃をお願いします」
「分かった!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」
美愛さんの『火弾』5連射を天狗は飛び上がって回避した。
「火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」
「MUOOOOOOO!!?」
訂正。
『火弾』は35連射で、回避することは不可能でした。
「バウンド!一閃!」
火弾の雨に呑まれて隙ができたところに超加速で距離を詰めて『一閃』を叩き込む。
狙いは翼。
空を飛ばれると厄介だから、翼をもぎ取って地面に叩き落とす。
「アースブレード!」
右の翼を斬り落としたら、万堂さんと
「MUUUUUN!!」
天狗も刺股を突いて反撃を試みたが、万堂さんは盾で受けて弾き返した。
「オラァッ!!」
大上段から土の魔法剣が振り下ろされる。
天狗は刺股を横にしてそれを受け止めた。
「加重!!!」
「MUOOO!!?」
しかし受け止めきれず、天狗は刺股もろともぶった斬られた。
「美愛さん!!」
「いくよ、大炎上!!!」
「MUOOOOOOOOOOO!!!」
最後は美愛さんの大魔法が炸裂し、天狗は燃えて灰になった。
「ナイスー!」
「お疲れ様です!」
「お疲れ」
これで予定通り30層クリアだ。
あとは31層をちょっと見て転移陣踏んで帰ろう。
「まだ19時だけどもう帰るの?」
「31層からは雪フィールドだ。寒いからもっと厚着してきた方がいい」
「そうなんだ。あ、じゃあ万堂さんのパーティー加入記念にみんなでご飯食べに行こうよ!」
「良いですね、そうしましょう」
「…まあ、いいが…」
万堂さんもよく耐えていたが、美愛さんのゴリ押しの前では無力に等しかった。
美愛さんのゴリ押しは最強である。
かくして万堂さんは正式に私達のパーティーメンバーとなった。
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