第28話 上層で無双する

「えー、新人ダンジョン配信者のサンです」

「美愛でーす!」

「今日はとりあえず『品川ダンジョン』7層からのスタートです」


〈はじまた!〉

〈きちゃー!!!〉

〈そっちの子がミアちゃんか〉

〈可愛い!〉

〈ここはカップルチャンネルですか?〉

〈百合チャンネルなんだよなあ…〉

〈今日7層からか〉

〈25レベならもっと先からでいいんでない?〉


今日は深層転移後初めての探索配信だ。

視聴者数は相変わらず開始早々に1万人超え。

ちなみに昨日の最高視聴者数は7万5千人だった。


「確かに私のレベル的には20層くらいが適正なんですが、私が行ったことあるのが1〜7層までで8層から先は行ったことないんですよね」

「でも21〜24層は行ったよね」

「51〜61層辺りも一応知っているんですけど」


〈???〉

〈めちゃくちゃやな〉

〈未踏域は知ってるけど24層にも行ったの?〉

〈転移罠でな〉

〈ええ…?〉

〈だいぶおかしなこと言っとる〉

〈マジで何で生きてんだお前〉


何で生きているのかといえば…まあ、運だろうなあ。


「あたしのレベルも14だから、あんまり深い層行っちゃうと危ないしね」

「美愛さんとのレベル差もちょっと何とかしないとですね」

「パーティー解散とかないよね…?」

「そういえば夏休み限定パーティーだったような?」

「えー!やだやだ!夏休み終わっても解散なんかしたくない!」

「冗談冗談」


私としてもパーティーを解散する気はもう無かった。

21層で一緒に死地を潜り抜けたり、深層転移の時も迎えに来てくれたりしたからな。

レベル差についてもそんなに心配していない。

レベルは上がれば上がるほど次のレベルに上がりにくくなるから、そのうち差は縮まるはずである。

問題があるとしたら私の方だ。


「とりあえず、勝手知ったる7層で能力検証からやっていきます」


深層から生還するために素早さ超特化になった私は果たして先の層に進んでいけるのか?




「あ、サンダーバードだ」


〈いきなり階層主戦か〉

〈因縁の相手じゃん〉

〈レベル差的には余裕のはずだが〉

〈キングオークに比べたら何でも無いだろ〉


サンダーバードの推奨討伐レベルは12。

レベル差13もあるので、本来なら楽勝の相手。


「美愛さんは牽制の魔法をお願いします。魔法の後に私が仕留めにいくので」

「先あたしでいいの?」

「美愛さんのレベリングも兼ねてるので」


パワーレベリングは御法度だが、サンダーバードは美愛さんにとっても格下なので問題ない。


「じゃあ撃つよ!火弾!」


美愛さんの魔法がサンダーバードに向かって飛ぶ。


「KIIIIIIIIIIIIIII!!」


しかし、サンダーバードは身を翻してそれをかわした。

そのまま私達に向かって突っ込んでくる。


「火弾!火弾!火弾!火弾!当たった!」


『火弾』の1発がサンダーバードに当たり、敵の速度が落ちた。


「バウンド!」


スキルを使用して急加速&大ジャンプ。

一度の跳躍でサンダーバードの真横に着いたが、サンダーバードからは何の反応もなかった。


(もしかして、私の動きが見えていないのか?)


素早さに差があるとこういう感じになるのか。

相手が動かないのを良いことに私は追加のスキルを発動した。


「一閃!」


名前的に攻撃系だろうと踏んだ『一閃』というスキルを使ってみた。

すると、サンダーバードは胴体から真っ二つになった。


〈うお!〉

〈はっや〉

〈マジで見えねえ〉

〈最早瞬間移動だろ〉

〈綺麗に真っ二つになったなあ〉

〈今のが「一閃」?〉

〈多分そう〉

〈ダガーで真っ二つなんて無理だもんな普通〉


サンダーバードは空中で魔石に変わった。

私はそれをキャッチしつつ地上へ降りた。


「どうでした?」

「速過ぎて分かんない!」


〈うむ!〉

〈気付いたら鳥が真っ二つでした!〉

〈攻撃スキルよりも移動速度に目がいってな…〉

〈ユニークスキルだけあって強そうやったけど〉

〈斬撃範囲向上みたいな能力かな?〉

〈シンプルに攻撃力アップもありそう〉

〈サンダーバードは紙装甲だから未だ分からんぞ〉

〈総評:素早さ120は凄い〉

〈階層主倒したし8層行こうぜ〉


どうやら初お披露目の『一閃』より素早さ120の方が目立ってしまったようだった。

私の使用感としては結構強そうだったんだけど…。

攻撃力に不安のある私だが『一閃』を使えば結構戦えるかもしれないと思う程度には強かった。


「あー、でも魔力消費3か…今日はもう魔法使えないな」


私の魔力も3なので『一閃』は今のところ日に1発しか撃てない。

加えて透視も使えなくなってしまうので、現状では使い所を見極めなくてはならないスキルという感じだ。




「あ、あたしレベル上がった!しかも何か新しいスキルもある!」

「え、マジですか」


美愛さん的にも格下の階層主だったが、元々レベルアップ間近だったのか15レベに上がった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:美愛

レベル:15(+1)

体 力:21

攻撃力:25

防御力:20

素早さ:25

魔 力:30/35

 運 :10

S P :7(+7)

スキル:火弾、連射、魔力回復

ーーーーーーーーーーーーー


〈魔力回復か〉

〈どんなスキル?〉

〈5分毎に魔力1回復〉

〈強くね…?〉

〈魔法使いはみんな欲しがるやつ〉

〈スキルの噛み合いが凄いな〉


「回復かー、そろそろ別の魔法欲しかったなー」

「あー、ずっと火弾連射してますもんね」

「そうなの!」


有用なスキルの上、既存スキルとの噛み合いも良さそうだが、流石に少し飽きが来ていそうな美愛さんだった。


「SPの割り振りはどうします?」

「うーん、どうしよう?」


〈体力と防御力で良いんじゃね?〉

〈まあそれが無難かな〉

〈運17ワンチャン〉

〈ワンチャンないです〉

〈この際魔力特化にするとか〉


「魔力特化かあ…」

「万能型の方が良いっていうのが通説ですけど」

「でもさあ、万能型だとサンさんに追いつけなくない…?決めた、あたし魔力特化にする!」


で、こうなった。


ーーーーーーーーーーーーー

名 前:美愛

レベル:15

体 力:21

攻撃力:25

防御力:20

素早さ:25

魔 力:37/42(+7)

 運 :10

S P :0

スキル:火弾、連射、魔力回復

ーーーーーーーーーーーーー




サンダーバードを倒した私達は8層に向かった。

8層は再び木が減って林になる。

なお、魔物の強さは7層と変わらないと言われている。


「うわ、ジャイアントフラワーじゃん…」

「サンダーバードも飛んでますね…それも2匹…」


8層は魔物の強さは7層並みだが、7層までのフロアボスがノーマル魔物として出てくるようだ。


「まずジャイアントフラワーから狩りますか。作戦はさっきと同じで」

「あたしが牽制、サンさんがトドメね?」


樹木に紛れてジャイアントフラワーに近付く。

十分な距離まで迫ったら美愛さんへ合図を出して攻撃させた。


「火弾!」

「KISHAAAA!!」


魔法の着弾を確認してから高速でジャイアントフラワーの背後へ回る。

『一閃』はもう撃てないので、今度は速さに任せて敵を斬りつける。


「バウンド!バウンド!バウンド!バウンド!」


〈はえええええ〉

〈動きが速すぎて見えねえ…〉

〈エ/ロ触手がばっさばっさと刈られていく…〉

〈あ、倒した〉

〈強い〉

〈エ/ロのエの字も無かった…〉

〈ま、まだ相当レベル差あるから…(震え声)〉

〈これ上層の魔物だとマジで1発も攻撃当てられないだろ〉


「ナイスナイスー!」

「美愛さんも良い牽制でした」

「そう?正直、あたし今日何もやってない気がするけど…」

「まあ、まだレベル差あるんで…それより、次は階層主倒しに行きません?」

「え、あっちのサンダーバードは?」


別に倒しても良いのだが、今の感じだと多分楽勝で終わってしまう。

それなら早く先の層に進みたい。


「それに美愛さん的にも格下の相手だし、あんまりうまみ無いかなって」

「じゃあいっか!」


〈いいんだ…〉

〈この主体性の無さよ〉

〈アホ可愛い〉

〈まあ言ってることは間違ってないし…〉




8層の主は『ゴブリンシャーマン』。

魔法を使うゴブリンだ。

推奨討伐レベルはサンダーバードと同じく12。


「せいっ!!」

「GOBUUUUUU!!?」


〈弱い〉

〈ざっこ〉

〈瞬殺じゃねーか〉

〈所詮はゴブリンよ〉

〈遠距離攻撃持ちだから上層ではそこそこの敵なんだけどな…〉

〈最早弱い者イジメでは?〉


「レベル上がんないなー」

「流石にね?」


美愛さんは30分前にレベルアップしたばかりだ。

私としてもめちゃくちゃ格下の階層主だし、倒したところで経験値は全く足りないだろう。


「美愛さん、このまま9層行って良いですか?」

「え、ガチで?」

「ガチで」


〈もう9層行くのか〉

〈サクサク進行過ぎないか?〉

〈フロアボス倒したし行こう行こう〉

〈何か全然火力足りてるしな〉




9層は林の中に湖があるフィールドだった。

階層主は『バブルスライム』。

推奨討伐レベルは13。


「うらっ!!」

「BABUUUUUUU!!?」


〈はい瞬殺ぅー!〉

〈雑魚〉

〈無双ゲーかな?〉

〈所詮はスライムか〉

〈次行こう次!〉




10層は9層からフィールド変化無し。

階層主は『ハイオーク』で、推奨討伐レベルは14だ。


「火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!火弾!」

「BUMOOOOOO!?」


〈火弾10連射エグw〉

〈良いなー俺も連射スキル欲しい〉

〈チャーシューとかドロップしそう〉

〈これ火弾だけでいけそうか?〉

〈あ、サンだ〉

〈うわあ…〉

〈背後から首を一突きすか…〉

〈火弾連打で注意引いて背後から急所攻撃はエグいっぴ…〉

〈よし、11層行こう!〉


「どうします?」

「サンさんに任せるけど?」

「うーん、流石に今日はやめておきますか」


〈えー!!〉

〈行けるって!〉

〈11層から中層だしな〉

〈行くにしても日を改めて万全の状態で行った方がいい〉

〈たしかにそうかも〉

〈でもレベル25やぞ?〉


「もう2時間くらい経ちますし、帰りの時間考えると今日は撤退かなって。私は明日も潜るつもりですが、美愛さんは行けますか?」

「大丈夫!」

「じゃあまた明日、同じ時間から、今度は中層攻略配信でお会いしましょう」

「ばいばーい」



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