第5章 帰還

第21話 51層を目指して走れ

〈サン:生存報告!〉

〈キングオークが主なら70層くらいか?〉

〈うお!〉

〈生きてたー!〉

〈サンちゃんだああああああ!!!〉

〈え、これチャンネル主?〉

〈生きとったんかワレェ!?〉

〈これ本物?〉

〈偽物なわけないだろ〉

〈見りゃ分かるだろ〉

〈いや乗っ取りでは?〉

〈何がどうなったんだ?〉

〈詳細説明プリーズ〉


「詳細か…そんな時間あるかな?」


周囲の様子を伺うが、やはり魔物の姿は無い。

どのみち体力はすっからかんなので休憩は必要だ。

私はコメント入力を続けることにした。


〈サン:走って逃げました〉

〈いやいやいや〉

〈流石に無理あるぞ〉

〈俯瞰視点のカメラから消えるってどんな速さやねん〉

〈乗っ取り説ワンチャンあるな〉

〈素早さ30やろ?トップアスリートより1段上くらいの速さで消えるのは無理だろ〉


まあ、そう思うよね。


〈サン:何でか分からないんですがレベル25になってました。素早さは120です〉

〈は?〉

〈お前は何を言ってるんだ?〉

〈さっきレベル10だったじゃん〉

〈嘘乙〉

〈そんな簡単に15レベも上がるわけないだろ〉

〈ていうか今どこにいんだよ?〉


「うーん、やっぱり信じてもらえないか…」


コメ欄の反応は至極真っ当なものであった。

私だって何が起きたか理解できていないのに、コメント欄が信じてくれるわけもない。


「でも実際レベルは上がってるんだよなあ…」


私が幻覚を見ているとかでなければ、何かの間違いだろうか?


「深層の大怪獣バトルに巻き込まれた結果、ステータス画面がぶっ壊れたとか?」


ステータス画面もどんな理屈で発生してるのか分からないダンジョンの謎技術。

もしも何かのバグなら原因究明は難しい…。


「あ!」


その時、私の脳裏に電力走る!


〈サン:もしかして魚蛇がオークにやられた分の経験値?〉

〈?〉

〈何言ってんの?〉

〈日本語でOK〉

〈頭でもイカれたか?〉

〈深層の恐怖で…〉

〈サン、あなた疲れてるのよ〉


「くっ、全然伝わらない!何て言ったら伝わるんだ!?」


〈オークが魚蛇を倒す、近くにいたサンにも経験値が入る、レベル爆上がりってこと?〉


そうそれ!

私はそれが言いたかったんだよ!

有能コメントGJ!


〈そんなことある?〉

〈そんなわけないだろ〉

〈ありえんて〉

〈サン:それが言いたかった〉

〈いやいやいや〉

〈無いって〉

〈これは嘘松〉

〈パーティー組んでたら仲間が倒した分の経験値が入ることもあるけど…〉

〈キングオークは仲間じゃないだろ?〉

〈え、ありえるのか?〉

〈お前魚に食われてただけやん〉

〈お前ら騙されんな〉


一応口の中でダガーを振り回してはいた。

1ダメージも入ってなさそうだったけど、続くオークの攻撃で魚蛇が絶命したため私にも経験値が入ったのでは?


「でも文章で説明すんの面倒だな…」


配信画面を見る限りドローンは無事で、寄り道もせず真っ直ぐ飛んできている。

私が転移したのでなければ、そのうち戻ってくるんじゃないか?


〈サン:ドローン無事そうなのでドローンが戻ってきたら口頭で説明します〉

〈はい逃げた〉

〈了解〉

〈え、マジで生きてんの?〉

〈連携してるスマホか何かに向かって飛んでるっぽいし瞬間的に長距離移動したのはマジっぽいな〉

〈素早さ120マジ?〉

〈騙されてる奴全員バカ〉




数分後にはドローンが戻ってきた。

一緒にキングオークも連れてきてたらどうしようと不安だったが、そんなことにはならなかった。


「映像と音声大丈夫?」


〈本当にいた!〉

〈生きてて良かった!〉

〈あそこからどうやって切り抜けたんだ?〉

〈説明はよ〉

〈フェイク動画だろ〉

〈あれ、猫耳が無い!?〉


「フェイクじゃないです。あと猫耳は落とした。湖に落ちた時か、走った時か…。とりあえずステータス見て」


リアルタイムでコメントに返事をすることでフェイク疑惑も払拭しておく。

そして自分のステータスを画面に映した。


〈なんやこれ?〉

〈めっちゃレベル上がってるな〉

〈素早さ120!?〉

〈120でカンストなんだ〉

〈上限あるなんて情報初めて聞いたけどもしかして初出?〉

〈これ人類最速じゃね?〉

〈運24!?〉

〈運24www〉

〈運に驚いてる奴らは途中から見た奴らやな〉


私が先程の推測を口頭で説明すると、コメント欄は半信半疑な感じだった。


〈仮に魔物討伐のお溢れ経験値があったとして15レベも上がるか?〉

〈深層の魔物ならあるんじゃね?〉

〈元が10レベでレベル差があったのは絶対影響してる〉

〈格上の魔物倒すとレベルアップ早いしな〉

〈スキルは確認した?〉


「スキルはまだあんまり分かってない。『衝撃緩和』は多分オート発動かパッシブスキル。さっき結構な勢いで転んだけど怪我しなかったから」


ただ、『衝撃緩和』と『バウンド』って効果被ってないか?

オート発動と任意発動の差があったとしても、正直他のスキルが良かったような…。

いわゆる『スキルガチャ失敗』というやつか…。


〈衝撃緩和はパッシブスキルやね〉

〈巷では外れスキルと言われている〉

〈ま?ゴミやん〉

〈常に衝撃を緩和する結果、素早さが下がるんよね〉

〈本当にハズレやないかい〉


「『隠密』も使ってみたけど、周りに誰もいないから効果発動してるか分からない。『一閃』は多分攻撃系のスキル?まだ試してない」


〈一閃も知らんスキルだ〉

〈俺も聞いたことないから未発見スキルかも〉

〈ユニークスキル2つめ!?〉

〈まじ?〉

〈めっちゃ運良いやん!〉

〈やはり運24か〉

〈ワイも運上げるか…〉

〈やめとけ、深層に飛ばされるぞ〉

〈そろそろ移動しない?〉


「移動か…」


移動すれば魔物に遭遇する可能性が高まる。

もう二度とキングオークには会いたくないんだが…。


「まあ、深層の未踏域にいても誰も助けに来ないだろうし、行けるとこまで行ってみますか」




〈ここ何層?〉

〈知らん〉

〈オークキングがいたから70層くらいじゃないか?ってさっき誰かが言ってた〉

〈オークキングの推定レベル70だからな〉

〈70レベならもうちょい浅めの層かも。50層のボスの地竜が討伐推奨レベル60だから〉

〈60層くらいってこと?〉

〈ワンチャンいけるか?〉

〈いや無理だろ深層やぞ〉

〈レベル上がったけど未だ25レベやしな〉

〈でも人類最速なんやろ?〉

〈フェイク動画に釣られ過ぎワロタwwwwww〉

〈51層に1層直通の転移ポイントあるぞ〉


「51層かあ…」


自力で帰れるならそれが1番だが、はたして私にやれるのだろうか。

もう『透視』も残っていないから未踏域を何の情報も無しに探索するしかない。


〈水と食料はある?〉


「さっきパンは食べちゃった。水はお茶が3分の1くらい残ってる」


〈食料無しか〉

〈水があるだけマシか?〉

〈安地に籠って助けを待つのも無理そうやなあ〉

〈そもそも誰も助けに行けねえんだよなあ〉

〈深層の未到域だからな…〉


1日待って魔力が回復してから動くことも考えたが、食料が無いのに1日無駄にするのは愚策のように思えたのでやめた。

ダンジョンで体力が尽きたらお終いだ。

深層なら尚更だろう。

やはり、行くしかない。


「…そろそろ行きます。移動中は無言になると思うけど、ご了承ください」


〈OK〉

〈気をつけていけよ〉

〈無言把握〉

〈まずはこの階層の登り階段を探さないとな〉

〈無理無理どうせ4ぬよ早く諦めた方がいいのに〉

〈またキングオークに会ったらヤバいな〉


「あ、そういえば全力ダッシュにドローンが付いてこれないんだった」


走り出そうとした瞬間にそのことを思い出した。

危うくまたドローンを置き去りにするところだった。


「うーん…手に持っていけばいいか?」


〈揺れてる揺れてる!〉

〈画面が!〉

〈酔う酔う!〉

〈もっと胸に抱えるようにして固定してどうぞ〉


コメントの指摘を受けてドローンを抱えてみる。


「これは私が動きにくい。リュックに突っ込むか。カメラだけ上手いこと外に出して…」


〈画面がめっちゃ斜めってる。水平にして?〉


「無理」


〈置き去りにしないように紐でも結んでおけば?〉


「紐なんて…あ、バッグのベルトでいけるか?」


バッグの右ベルトを切断してドローンに結ぶ。

画角はほぼ固定されたが、リュックとドローンが繋がったので、一応置き去りにする心配は無くなった…かな?

こんな時だが、未到域の映像が貴重なのは理解できるため、なるべく映像を残しながら進みたい。


(配信的にも美味しいしな…)


チラッと確認したら視聴者数もチャンネル登録者数もとんでもないことになっていた。


【現在の視聴者数:29,503人】

【現在のチャンネル登録者数:3,021人】


(登録者数、配信前から6倍になったかあ…視聴者数もまだ上がっていくなあ…)


視聴者数も何秒か毎に更新されて1分後には3万人に到達した。




〈あれ階段じゃね?〉


「え、まじ!?」


洞窟を道なりに歩いていくと、壁に空いた穴を見つけた。

はたしてそれは階段であった。


〈しかも登りだあああああ!〉

〈うおおおおおおお!〉

〈幸先良いな〉

〈やっぱ運良くね?〉

〈深層落ちの時点で運悪い定期〉

〈結局誰とも会わなかったな〉

〈このまま安全に行ってくれ〜〉

〈ここで助けを待つのもあり?〉

〈だから助けなんか来ねえって何回言わせんだよ〉


休憩は取ったばかりなのでさっさと上の階に行くと、フィールドがガラッと変更された。


「森?」


〈また上層みたいなフィールドか〉

〈いや、奥に何か建造物あるぞ〉

〈何だあれ?ピラミッド?〉

〈何かの遺跡かな〉

〈さしづめ森遺跡といったところか〉

〈初めて見るフィールドだ〉

〈やはりまだ未踏域か〉


「森か…」


上層で慣れてると言えば慣れているフィールドだが、当然上層の森とは全く別物だろう。


「とりあえず、探索を続けます」


そうして森に入ってすぐ、女の頭を持つ巨大蜘蛛に遭遇した。



【現在のチャンネル登録者数:3130人】

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