月夜の晩に

てぃ

KAC20234「深夜の散歩で起きた出来事」

 陽が落ち、夜は更けようと真夏は蒸し暑い。その上、やかましい虫の声に存在が

鬱陶うっとうしい羽虫ども。


 ──地上は駄目だ、空がいい。被った三角帽子を手で押さえつけ、助走をつけて

跳躍すると外套マントを翻し、空を飛ぶ。……やはり、そうだ。月夜の散歩とは快適で

なければならない。


 上空を目指し、ほどよい風と気温となる高さまで飛び上がる。


 ……わずらわしさから解放されると、自然と笑みがこぼれる。

 空の上は面倒がなくてよい。


 上昇を終えると仰向けになる準備をする。羽織った外套を毛布のように腹に

かけ、仕上げに頭に被った三角帽子をこれも腹に置く。帽子の丸いつばに沿って

腕を回し、指を組む。


 このまま、風に流されながら眠るのもよい。肉体を弛緩しかんし、吹かれるままに

空にゆだねる。大地に横たわるより、海に体を浮かべるより、空に預ける方が

安らぐのだ。それが出来るなら、であるが。


 ……不意に月光がかげる。薄目を開けると、少女の輪郭があった。


「……なんか用か」


「別に用はないよ、魔法使いのお兄さん。何してるのかな~って、思っただけ」


「そうかい。……じゃ、散れ」


 魔法使いは手で投げ遣りに追い払う仕草を見せる。


「何その言い草! 此処はですねぇ、父上の支配する領域なのよ! 私の父上の! 

それなのにそんな事言って、いいのかしら!」


「夜の世界がお前達のものではないように、この空も誰のものでもあるまい」


「そんな事ないもん! 父上は言いました、我々は生まれながらにして世界を治める使命を負っている、民草は常に我々を見ている、支配者たるものは……尊敬、じゃ

ないや、畏敬を……え~っと……」


 体起こして捻って起立する。掴んだ帽子をに目深に被せると、腹に巻いた

外套を肩にかけ、三角帽子のとんがりを掴む。


「あっ、ちょっ……! 何するのよ! 不敬よ、不敬!」


「そうかい」


 半ば目隠しのような帽子が脱がされると、


「……あれ?」

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月夜の晩に てぃ @mrtea

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