私の恋人さん

冥沈導

出会って

 深夜の森をトボトボと、力なく歩いていた。

 誰にも見つからない、死に場所を探していた。母親に「頼むから死んでくれ」と言われたからだ。

 泣きながら『迷惑をかけない 死ぬ 方法』と検索し、辿り着いたのは、練炭自殺だった。


「ここでいっか」


 森の外れに、湖を見つけ、死に場所を決めた。満月が湖に映り幻想的だったからだ。


「車でここに来て、目張りして死のう」


 軽自動車でまたこの場所に来ようと、自宅に戻ろうとした時。


「早まっちゃいけねぇなぁ、早まっちゃいけねぇよぉ」


 誰もいない空間から声が聞こえた。

 振り向くと、段々と姿が見えてきた。

 銀髪に赤い瞳、三白眼の男の人が私を見ていた。


「……誰ですか?」


 私は怪訝けげんそうに尋ねた。


「俺? 俺は死神だ」


「…………」


「その目! 疑いの眼差し!」


「だって、大きな鎌を持っていない」


「鎌! レトロ死神! いいねぇ! けど、残念! 今時の死神は鎌なしでやれちゃうんだ」


「そうですか、どうぞ」


「何が?」


「魂を狩りに来たんですよね? だから、どうぞ。手間が省けました」


「それよ」


「どれですか」


「自殺よ。自殺した魂、自殺しようとしていた魂は、美味くねぇ。だから、止めに来た」


「そうですか、ではさようなら」


 私はきびすを返し、森から出ようと歩き始めた。


「ちょいちょい、まぁ、待ちなって」


 死神と名乗った男の人は、私を追ってきた。


「待ちません。私はいない方がいいんです」


「そんなことねぇから」


「あります。私は母子家庭なんです、その母親に「死んでくれ」と言われました。絶望しかありません」


「うん、わかる、わかるぜ? その絶望感」


「わかるわけありません」


「わかるって。俺もそうだったから」


 その言葉に立ち止まり、振り返った。


「俺も母子家庭だった。で、病んだ母親に「死んでくれ」と言われた。だから、わかるぜ」


 死神と名乗った人は、残酷な事をケラケラと笑い、友人に昨日あった出来事を話すように言った。

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