明日へバトンタッチ
ろくろわ
深夜の音
深夜一時。
街は静かでいて、そして煩い。
私はそんな時間の街を彷徨うのが好きだ。
日が射している時の街には色んな音や匂いで溢れている。しかし真夜中になるとその音が消え、夜だけの景色が広がる。
遠くに行けば行く程、知らない道を進めば進む程、新しい出逢いがある。
終電の過ぎ去った駅は静かな空気の中、人々のざわめきは聞こえず、機械の音だけがポーンと鳴り響いている。
歩道に並ぶ新旧おり混ざった自動販売機は、古い物だけが煌々と明かりを灯し、ちゃんと動いているよと証明しているかのようにブーンとした
まだ眠らないアパートのベランダでは煙草を吸っている人の咳き込む音が聞こえる。
遠くに誰かの命を助ける救急車の懸命な
道端の街灯はパチパチと瞬き、小さな虫がその身を焦がしている。
信号は昼間の役割を終え、赤色と黄色の追いかけっこを始める。
そんな夜に昼間は群衆に埋もれる私も「私は此処にいる」と下手な鼻歌を歌いながら歩く。
下手な鼻歌が静かな夜に響くと結局恥ずかしくて心の中で歌う事になるのだが、それでも外に流れ出ている気がする。
静かだから煩い深夜。
私の靴音が響く。
昼間には聞こえない私の音。
私の吐息が聞こえる。
昼間には消えてしまう私の音。
私の鼓動が聞こえる。
昼間には埋もれる私の存在。
そんな私は今日もまた深夜の観察者として街を歩く。
古い自動販売機で飲み物を買い、ありがとうを呟く。
ベランダの人にはご苦労様と呟く。
救急車には感謝を呟く。
街灯や信号の瞬きに時間を忘れ眺めてしまう。
私が観察した音や景色は、私が観察した事で今日、確かに此処にあったのだ。
そしてその存在に意味を与え、私は家へと帰るのだ。
外に出る時は楽しい散歩も家に帰る時には何処か寂しい気持ちになる。
また日が昇るのを待つ為、眠りにつく準備をする。
明日の私へバトンタッチ。
そんな私の深夜の出来事。
了
明日へバトンタッチ ろくろわ @sakiyomiroku
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