深夜の邂逅

まれ

邂逅

 僕は今日、初めて深夜に家を出た。

 一般的に深夜と呼ばれる二十二時を超えてわざわざ外に出るようなことをしたことが今までしたことが全くない。

 今日は気温が低く、空気が澄んでいる。




 少しひらけた高台に少女がいる。

「どうしたの?こんなところに」

 少女と目が合い、声をかけられた。

「いや、ちょっと息抜きで散歩でもしてたらここに着いて」

「じゃあ、少し話そうよ」

 僕は頷いて彼女の近くに寄った。

「君の名前は?」

「僕はせいら。星に羅臼の羅で星羅せいら

「君は?」

「私はきらら。ひらがなできらら」

 すみやかにお互いの自己紹介を済ませる。

「ねえ、星とか好き?」

「あーいや、名前に入ってるけど、実はそうでもない」

 パッと彼女を見ると少し残念そうな顔をした気がした。

「でも!興味はあるぞ?」

「ほんと⁉」

 先ほどの顔から一転明るい表情に戻った。



「私ね、昔大切な人を亡くしたの」

 急な彼女のカミングアウトに僕は困惑した。

「そんな顔しないで。大丈夫だし。それでね。星になって、私を見守ってくれてるんだと思ってるの」

「どんな人だったの?」

「その子が小さかったときからずっと一緒にいて、どこへ行くにも一緒で」

「仲良しだったんだね」

「うん。とても」

 彼女はその子のことを思い出して悲しくなったのか目に涙が溜まっているのが深夜の暗さでもわかった。



「あのさ」

 僕は咄嗟に考えるよりも早く、声に出していた。

「何?」

「僕がその心に穴を塞げないかな?」

 彼女はかなりびっくりしている。

「私にはこの子がいるから」

 そう言って彼女はうさぎのぬいぐるみを出した。

 実質振られた感じになってしまい、しばらく、なんとなく気まずい雰囲気になってしまった。



 沈黙に耐え切れなくなった僕は勇気を出して言ってみる。

「またここに来たら会える?」

「私はいつもここにいるからまた会えるよ!」

「そうなんだ。じゃあ、また」

「うん!またね!星羅くん!」

 彼女はまた会える可能性があることで一気に嬉しそうな顔になった。

 僕はあの時の彼女の顔が忘れられない。

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深夜の邂逅 まれ @mare9887

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