1−2
「ふー!同じ趣味を語れるのっていいね!たのしー!」
「で、ですね…。た、楽しかったです…。」
一旦落ち着くとまた話すのが苦手な私に戻ったけど。
百瀬さんとの語らいは本当に楽しくて。
百瀬さんも同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて。
でも、私でよかったのかな…。そんな疑問が浮かび尋ねてみた。
「んー。そだねー。最初バレた時は最悪って思ったけど。あんたも百合漫画が好きだって聞いて。こうやって語り合って。ほんとに好きなんだなってわかって。あんたでよかったと思ってるよ!」
そう話す百瀬さんは嬉しそうで。
もっともっとたくさん語り合いたいなと思った私。
だけど自分からはまだ言い出せず。
「でもでも!まだまだ語り足りないから!これからもどんどん語ろうね!」
「も、もちろんです…!わ、私でよければいくらでも…!」
代わりに百瀬さんの提案に即答する。
「ところでさ…。それなんだけど…。」
そう指差す先には一冊しかなく私に譲ってくれた今瀬もも先生の新刊があり。
「お願い!読ませて!」
「は、はい…。い、いいですよ…。」
そう返事をして、百瀬さんに手渡そうとするのだけど。
「あ、だめだめ!あたしだけ先に読ませてもらうなんて悪いから!だから一緒に見よ!」
そこまで言うと百瀬さんは立ち上がり私の隣に座る。
その提案自体は私も早く読みたい気持ちがあったから別によかった。
ただここからが問題で。
百瀬さんが本の右側を。
私が左側を持ち、好きなタイミングでページめくることになったのだけど…。
肩と肩が触れそうになるくらい近づかれると、百瀬さんからいい匂いがしてくる。
これだけでも私にはかなりドキドキ物で。
さらに距離を詰めようとする百瀬さんに、慌てて離れようとする私。
しかし、それじゃああんたが見にくいでしょ!とまた距離を詰められてしまい、肩と肩が触れ合う形になってしまう。
陽キャはこれが普通なのかな…。なんて思い諦めると、顔を赤らめながら読み進めることに。
少しページが進み、百瀬さんの方をチラッと見てみると。
なんだか少し顔が赤いような気がしたけど、きっと漫画のせいだと思う。
さて、漫画の内容はというと。
ケンカ別れした主人公とヒロインは、お互いの共通の友達である二人(元々はヒロインの友達)により仲直りをする。
そして、お互いの大切さを改めて知った二人。
最後は主人公がヒロインに告白することを決意して、次回最終巻となっていた。
読み終えた私は泣きそうになるのをグッと堪える。
百瀬さんはどうだったかなと様子を見てみると。
「やばいぃ〜。ちょ〜泣けるんだけどぉ〜。仲直りできてよかったよぉ〜。」
声を震わせながら、涙をポロポロと零していた。
私は慌ててカバンからハンカチを取り出すと、百瀬さんに渡す。
「うぅ〜。ありがとぉ〜。明日洗って返すねぇ〜。」
と言い、涙を拭く百瀬さん。
泣き止むのを待ちながら、今回もすごいよかったなぁ。なんて考えていると。
「はぁ〜。こんな泣くことになるとは思わなかったよ。」
「こ、今回もすごいよかったですね…!」
「うん!それじゃあ語り合おっか!」
「は、はい…!も、もちろんです…!」
さぁ、これから語り合いが始まる。
そんな時だった。
カラオケルームの電話がプルルルルとなり始める。
突然のことで驚いていると。
百瀬さんはがっかりしながら立ち上がると受話器を取り、なにやら受け答えをすると私の隣に戻る。
「むー!残り5分だって!せっかくこれから盛り上がるとこだったのにー!」
「ざ、残念です…。」
ほんとに残念で。
帰る準備をしていると。
「あー!そうだ!ねーねー!」
突然大きな声で私を呼ぶ。
「ど、どどどどうしたんですか!?」
「連絡先!交換しよ!」
そう言うと百瀬さんは自分のスマホを取り出す。
慌てて私も自分のスマホを取り出すと、交換が終わる。
初めてスマホの連絡帳にクラスメイトの名前が登録され感動していると。
「それともう一つ!ん?二つかな?まぁどっちでもいいや!」
そう言い指を一本、二本と交互に立てる百瀬さん。
「これから敬語禁止!それとお互い名前で呼ぶこと!」
「え…え!?」
百瀬さんの提案に驚きを隠せないでいると。
「だって、あたし達は百合友だから!」
「ゆ、百合友…ですか…?」
「そそ!百合を語り合う友達!略して百合友!」
百合を語り合う友達。
それはすごく嬉しいんだけど。
私が友達に…。
それに敬語禁止に、名前呼び…。
今までそんな相手がいなかった私にはなかなかハードルが高く。
できるかな…。
なんて考えていると。
「あ…もしかして…嫌だった…?」
そう不安そうな顔をする百瀬さん。
「そ、そそそそんなことないです…!む、むしろ嬉しいくらいです…!」
「ほんと!?よかったー!それじゃあこれからよろしくね!むつきー!」
私の返事を聞き、大喜びした百瀬さんはそのまま抱きついてきて。
時間がないことに気づくと。
あわわわわ…。と固まっている私の腕を引きながら、会計を済ませると外に出る。
ずっと固まっていた私はなんとか戻ると、お金を払おうとするのだけど。
無理やり連れて来ちゃったんだからと、奢ってもらうことになり。
「あ、ありがとうございます。も、百瀬さん。」
そうお礼を伝えたのだけど…。
「敬語を使われた百瀬さんは現在怒っており反応できませーん!ふーんだ!」
と、そっぽを向いてしまい。
それ以降、本当になにも反応してくれない百瀬さんに観念すると。
「え、えっと…。あ、ありがと…。あ、愛華…さん…。」
さすがに呼び捨てはまだ私には無理だったけどなんとか言い直す。
「んー。80点だね!でも及第点ってことで!」
と、お許しをいただけると駅まで一緒に歩くと、お互い電車が反対方向だったのでここで別れることに。
「それじゃあ改めて!これから百合友としてよろしくね!むつき!」
「う、うん…。こ、こちらこそよろしく…。あ、愛華さん…。」
お互いに挨拶をすると別れる。
ホームに向かいながら、なんだか長い一日だったなと思い。
電車に揺られながら、でも楽しかったなぁと思い。
駅から家までの間、百合友になったことが嬉しくて思わず笑顔になりながら歩く。
そして、家で新刊を読み返しながら愛華さんと一緒に読んでいたことを思い出しては悶えるのであった。
一方その頃。
帰宅した百瀬愛華はスマホを取り出すと連絡帳を開く。
そこには友達の名前がたくさん登録されていて。
スライドしていくと、河合睦月の名前を見つける。
百合友となったことが嬉しくてスマホを抱きしめる。
っと、今はそれが目的ではないことを思い出すとさらにスライドする。
百瀬舞。
百瀬愛華の実の姉の連絡先を見つけると電話をかける。
「あ!もしもし!お姉ちゃん!忙しいのにごめんね!」
「んー。いいよー。今は休憩中だしね。それでどしたの?」
「今日ね、今瀬ももの新刊買いに行ったんだけど!そこですごいことが起きたの!」
「すごいこと?」
「うん!同じ百合漫画好きに出会ったの!それが同じクラスの子で!あたしのミスで変装してたのバレちゃったんだけど!」
「あんた…。それ大丈夫なの…?」
「それがね!その子すっごい良い子でね!百合漫画でいっぱい語り合っちゃった!」
「おー!それはよかったじゃん!」
「うん!やっとあたしのヒロインになってくれそうな子が見つかったんだ!えへへー!嬉しいなぁ!」
「ほほー!それは詳しく聞かないと!」
「えー!どうしようかなー!っていうかまだ話したばかりで好きとかそういうんじゃないからね!?」
「ふむふむ?」
「ただ楽しかったなぁって!普段は大人しい子なんだけど!百合漫画を語ってる時はすっごい楽しそうで!それがあたしも嬉しくって!」
「えー!その子と会って話してみたいんだけど!」
「お姉ちゃんはだめー!」
「なんでよー!いいじゃん!」
「だってその子、今瀬もものファンなんだもん!」
「あー、それってヤキモチー?」
「ち、違うよ!びっくりして気を失っちゃうかもだもん!それが心配なんだもん!」
「あはは!それは逆に見てみたい!でもそっかぁ…。そんな良い子に出会えてよかったね。」
「うん!これからいっぱい話すんだー!」
「ふふ。それじゃあまた今度聞かせてもらおうかな!」
「うん!楽しみにしてて!あ、それと今瀬ももの漫画すっごいよかったよ!あの子も絶賛してた!」
「ありがとー!」
「ただやっぱり、百瀬舞〈ももせ まい〉を逆にして今瀬もも〈いませ もも〉っていうPNは安直だなって思うけどね!」
「それは言わないで…。」
なんて会話が起こっていることも。
愛読している百合漫画の作者である今瀬ももが、百合友になった百瀬愛華の実の姉であることもまだ、河合睦月は知らないのであった。
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