第11話

〜〜イルエマ視点〜〜


 私が所属している萬ギルド【狸の 腹鼓はらづつみ】は、王都を囲っている魔法壁の修復依頼を受けました。

 これは以前、聖女ギルド【女神の光輝】が受けていたモノです。

 アーシャちゃんが担当していたのでが、失敗したのでしょうか?


 とにかく、私たちは現場に行きました。

 担当するのは私とレギさんとエジィナちゃんの3人です。


「ま! 僕がいるからイルエマくんの出番はないと思うけどね」


「ええ。エジィナちゃんの頭脳なら魔力方程式は簡単でしょうしね。私はほんの付き添いですよ」


 エジィナちゃんはコンパスと計量器を使って計算を始めます。


「よし。天空の女神に550。豊穣の精霊に440。風の精霊に180だな」


 あれ?


「魔力湿度の係数を足しましか?」


「いや。必要ないだろ?」


「ええ。通常の 修復リペアなら必要ありません。でもそれでは耐久性が弱くなってしまうんですよ」


「本当かい!?」


「ええ。ここの土地は少しクセがあるんですね。ですから、ここの計算式をですね……」


「うは。ありがと。助かったよ」


「いえいえ」


「じゃあ、レギくん。これが正式な数値だ」


 エジィナちゃんの計算式は完璧でした。

 レギさんは魔力を解放します。


修復リペア!」


 強烈な光が魔法壁を包ます。

 同時に、弱まっていた壁が完全に修復されました。

 兵士長は大喜び。


「おお! 流石だ! これからは【狸の 腹鼓はらづつみ】に頼むとしよう」


 王都新聞の記者さんたちも現場に来ていました。


「この件を新聞に載せますので、状況をお聞かせください」


「私はただの付き添いですから。この2人だけを載せてください」

「何を言うんだ。君がいなかったらこんな立派な修復はできなかったさ」

「そうよ。嬢ちゃんも大活躍だったわ」


 ああ、こんな私が新聞なんかに載ってもいいのでしょうか?

 本当に単なる付き添いなんだけど……。



 ギルドに帰るとナナハさんが報酬をくれます。


「じゃあ、3等分でいいわね?」


「異存なし」

あたしも」


 いやいや。


「わ、私は異存がありますよ! 3等分は貰いすぎですって!」


「そんなことはないと思うぞ。君の助言がなければあんな立派な修復はできなかったんだ」

「そうそう。嬢ちゃんのおかげよ」


 ああ、なんて優しいみなさんなのでしょう。

 少々、お人好しすぎるような気もしますが……。

 

「ナナハくん。今日の夕食はなんだい?」

あたしもお腹が減ったよ」


「直ぐに作るわね。イルエマはチョコちゃんを呼んできてよ。みんなで夕食を食べましょう」


 収入は満たされてお腹も満腹ですね。

 優しい人たちに囲まれて、物凄く幸せです。

 ああ、みなさんありがとう。

 


☆☆☆


〜〜キアーラ視点〜〜


『狸の 腹鼓はらづつみ、王都を救う! 魔法壁の劣化をポンポコポンとすっきり解決!』


 何よ、この記事ぃいいいい!

 あの地味子が載ってるじゃない!!

 本当は私たちが載ってる記事なのにぃいいい!!


 悔しいわ。

 この記事の内容からして、地味子が魔力方程式を解いたのね。

 うう……。私の勉強は限界だし、解雇にしたのは失敗だったわ。

 やっぱりあの子に戻ってきてもらった方がいいわね。


 そんな時。私の前にアーシャが立った。

 背中に大きな荷物を背負って。


あーし。辞める」


「はぁあ? 何よ急に!?」


「仕事して怒られるなんて我慢の限界だもん」


「ちょ! 待ってよ!」


 彼女はこの前の修復依頼を失敗して怒っているのね。

 あの時は兵士長にドヤされたからな。

 アーシャが抜けるのはまずいわ。

 この子の魔力量はギルド一なんだから。


「あなた、このままでいいの? 地味子が新聞に載っているのよ!?」


「うん。読んだよ。大活躍だよね。地味エマの癖に」


「そうよ! 本来ならあなたがこの記事に載っていたんだから!」


「でも、地味エマがいないと魔力方程式の数値がわからないよ?」


「じゃあ、連れ戻しましょう!」


「できるの?」


「できるに決まっているじゃない。【女神の光輝】は聖女が憧れるギルドなんだから」


「でもさ。あんな地味な子には、このギルドは似合わないんじゃない?」


「だから裏方に徹底させるのよ」


 そうよ。目立たせずにこき使ってやればいいんだわ。


 魔法壁の修復依頼は失敗。ポーション事業は撤退、相談客の足は遠のき、今や、このギルドの収入源は聖女のグッズのみとなってしまったわ。

 なんとしても地味子に戻ってきてもらわないと困る。

 見た目だけでは聖女ギルドとしての威厳が保てないわ!


 ネルミが血相を変えてやってきた。


「大変ですキアーラさま! 地味子のグッズの問い合わせが殺到しております」


「なんでよ?」


「王都新聞に載って知名度が上がったからですよ! 元女神の光輝のメンバーだったことが知れ渡ってうちに問い合わせが来ているんです!」


 あの子の 小型肖像画ミニチュアールは倉庫に在庫が溜まっていたわね。


「在庫はどうなっているの?」


「全て売れました」


「えええええええええええ!?」


「どうします? こんなに人気の出る聖女は初めてですよ!?」


 ああ、これはなんとしても戻ってもらわないと困るわ!


「狸の 腹鼓はらづつみに行くわよ!」



☆☆☆


〜〜イルエマ視点〜〜


 狸の 腹鼓はらづつみは本部が改装されました。

 外見は綺麗になり、入り口にはしっかりと狸のエンブレムが飾られています。

 内装も一新。そんな壁に飾られているのが、私の 小型肖像画ミニチュアールです。


 どういうこと?


「イルエマ。可愛い♡」


 バーバダさんが露店で購入して来た私のグッズ。

 コップにタオル。人形。私が女神の光輝に属している時に作ったグッズの数々。

 それらが改装されたギルドの中に飾られます。


「あの……。恥ずかしいからやめてくれませんか?」


「ダメ。イルエマ。可愛い♡」


 はぁ。ダメだこりゃ。


 レギさんは化粧品を並べながら言いました。


「今ね、王都に買い物に行って来たんだけどさ。嬢ちゃんのグッズがプレミアがついて売っていたわよ」


 ええ!?


「物好きな方がいるもんですねぇ。女神の光輝に所属している時は在庫の山だったんですけどね」


「嬢ちゃんは王都新聞に載っているからね。女神の光輝には在庫はないだろうから、値段が高騰しているんでしょ。本当にね。困ったもんだわ」


 そう言って隠したのは私の似顔絵が描かれたコップでした。レギさん?


 ナナハさんは台所から顔を出す。


「これは新しいビジネスチャンスかもしれないわ!」


 はい?


「イルエマのグッズを狸の 腹鼓はらづつみから出すんだよ! そうすれば大儲けができるわ!」


 いやいや。


「勘弁してください。私は目立ちたくないですよ」


「あん! 良いアイデアだと思ったんだけどな」

「ははは。しかし意外よね。嬢ちゃんみたいな地味な子がさ」


「本当ですよ。私なんかのどこがいいんだか」


「意外とその地味な見た目が男を狂わすのかもね?」


 どうせ、ペットか珍しい動物でも見てるような感覚ですよ。


「イルエマくんは男にモテるのかもしれないね」


「んもう。エジィナちゃんまでぇ。揶揄わないでくださいよ」


 やれやれ。

 所詮、私は地味な女なのです。たまたま今は注目が集まっているだけ。謂わばレアモンスターみたいなもんですよね。

 

 ため息をついたら眼鏡が曇ってしまいました。

 ちょっと拭きましょうか。


フキフキ。


「「「 !? 」」」


 あれ?

 急に静かになりましたね。


「……ほえ? みなさん、どうしたんです?」


 なぜか、真っ赤な顔ですよ?

 私を見つめているみたいですが??

 私の後ろに誰かいるのでしょうか?


「……」


 えーーと。

 ……後ろには誰もいないですけど??


「はぁ……。イルエマくん……。き、君は……」


 はい?


「じょ、嬢ちゃん……」


 レギさんまで?


「イ、イルエマ……」


 ナナハさん?


「イルエマ♡♡♡」


 バーバダさんはいつもより一層、熱った視線をこちらに向けていますね。

 眼鏡を外した私の顔がそんなに珍しいのでしょうか?



「「「 美少女!! 」」」



 はい!?

 みなさん、お気を確かに!

 私は地味子ですから!



────


次回、キアーラが狸の 腹鼓はらづつみに行きます!

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