第10話

〜〜キアーラ視点〜〜


「狸ギルドが王都を救うぅうううう?」


 何よ、この記事ぃいいい!!

 よりにもよって、あの地味子の名前が載っているじゃない!!


 部下のネルミは小首を傾げる。


「地味エマは 回復ヒールくらいしか使えませんからね。お情けで名前を載せてもらったんだと思いますよ」


「そうよねーー。戦闘で役に立つはずがないわ。ったく地味子の癖に目立ちやがって」


「それでぇ……。ポーションの件。どうしましょう?」


「う! ううう……」


 私がギルドマスターを務めるギルド、【女神の光輝】はピンチに立たされていた。

 王城からはポーションの需要が高い。

 常に受注が要求される。

 しかし、地味子が担当していたポーションの材料調達がまったく上手くいかなくなった。

 今年は寒波の影響で材料が高騰している。どうしても高い材料になってしまうのだ。

 

「こ、今回はどれくらいの注文がきているのかしら?」


「いつもどおり、千本ですね。B級品以上の品質を千コズンの値段で条件にされております」


 うう……。

 地味子がいない現状、うちのギルドで作れるのはC級品まで。

 これでは売れないので他の店からB級品のポーションを2千コズンで購入して、それをうちのギルドが作っている物として王城に販売しているのよ。

 1本、2千コズンのポーションを1千コズンで売るから1千コズンの赤字。それが千本だから100万コズンもの大金をうちが出していることになる。

 ああああ……。大赤字だわぁ……。


「うう……。地味子の奴。一体、どうやって安くて品質の良い材料を仕入れていたのかしら?」


 体でも売っていたとか?

 まさかよね。あの地味子が男を垂らし込むなんてできるわけないし。


「本当ですよね?  素材進化マテリアルハイでは1等級を上げるのが限度ですし、謎ですよね」


「し、仕方ないわ。もうポーション事業からは撤退しましょう」


  小型肖像画ミニチュアールの売上をポーションで消費していたらうちは潰れてしまうわよ。

 ポーション事業ごときでうちの評価が下がるとも思えないしね。

 

 それよりも魔法壁を作る時に必要になる魔法方程式をできるようにしなくちゃいけないわ。

 あとは新規事業の開業ね。

 女神聖歌隊のコンサートを開かなくちゃ。


「キアーラさま。相談をして欲しいというお客さまが来ておりますがどうしましょうか?」


 うう。こんな時にぃ。


「わ、私が対応するから、通しなさい」


 もう前回みたいな失敗はしないわよ。

 相談なんてね、ちゃちゃっと片付けてしまうんだから!


「わ、わしぃ〜〜。か、体の〜〜。あちこちが〜〜。痛くての〜〜」


 ここは病院じゃねぇえんだよ、クソジジィ!!


「病院に行ってください。ここは相談を聞くところですから」


 ジジィは不機嫌そうな顔をして出て行った。

 ったく、どうしてこう難しい相談ばかりが来るのよ?

 本当についてないわ。

 ええい、むしゃくしゃするわね。


「歌の練習をするわよ!」


 男をきゃあきゃあ言わせてコンサートでグッズを売るんだからぁああ。


「恋。それは神の囁き。あ゙ーーあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」


 うぉりゃあああ!

 天空に轟け私の美声ぃいいいいッ!!


「キ、キ、キアーラざま……。練習中にもうしわけないのですが、ま、魔法壁の修復依頼が来ております」


 ええええええええええ!?


「早すぎない?」


「この前とは反対の場所みたいです」


 うう……。やるしかないわね。

 これ以上、王城からの依頼は断れないわ。

 S級ギルドの名にかけて。


「いくわよアーシャ」


「ええーー。地味エマはぁ?」


「地味子がいるわけないでしょ!」


「じゃあ、誰が魔力方程式を解くの?」


「私に決まっているでしょ! 誰もやらないんだから!!」


あーし、嫌だなぁ」


「文句いわない!」


 もうやるしかないのよぉ!





 私は参考書とコンパス、文鎮を使って補修する魔力数値を出した。


「天空の女神に300。豊穣の精霊に140。風の精霊に280よ」


「本当? その数値、大丈夫?」


「だ、大丈夫に決まっているでしょ!」


 魔法壁の補修をする場合。精密な魔力の数値が必要になる。

 それを魔力方程式を使って出さなければならない。

 地味子ができていたんだからぁ、私にだってできるはずよ。


「やりなさいアーシャ!」


修復リペア!」


 しかし、魔法壁は稲光とともに消滅した。


「ちょ、何やってんのよぉおお!!」


「数値が間違ってたのが悪い!」


「いいから、新しい魔法壁を作り直しなさい!!」


 その間に上空からはドクロコウモリが侵入。

 王城の兵士たちが対応してくれたのは言うまでもない。

 兵士長は凄まじい顔つきで怒鳴った。


「もう、金輪際、女神の光輝には頼まんからな!!」


 あああ。

 ポーション事業の撤退。並びに魔法壁修復作業の失敗。

 こうして、くだされたのが、


「え、A級……」


 それは王室からの1通の通達。

 デカデカと書かれた降格の表示。

 王室からの評価はSからA級に落ちてしまった。


 な、なんでこうなるのよぉおお!!

 くぅうう!

 こうなったら聖歌隊の新規事業展開で盛り上げるしかないわ!

 王都で人気が上がれば、王室も私たちのギルドを認めざるを得ないんだからぁ!


「恋。それは神の囁き。あ゙ーーあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!」




☆☆☆



〜〜ナナハ視点〜〜


 相談を希望する客が来た。

 90歳を超えるヨボヨボのおじいちゃんである。

 名前をルードビッヒ・ヴォン・アーゼンシュダインという大層威厳のある感じ。

 なんでも、公爵を引退された偉い人だった、らしい。

 周囲からはご隠居、と呼ばれていた。


「わしぃ〜〜。体が〜〜。痛くての〜〜」


 相談内容はとりとめのない体の不具合。それと孫や政治の話だった。


 こんな相談どうやってクリアするんだろう?

 健康相談は病院を勧めるとして、孫の話とか政治の話なんて私にはちんぷんかんぷんよ。


 それでも、イルエマは笑顔で聴いていた。


「ええ。なるほど。そうなんですね」


 1時間もするとご隠居はニコニコと笑いながら帰って行った。


「良い病院が見つかったのかしら?」


「ほえ? 病院なんて紹介してませんよ?」


「え? だって、体が痛いって……」


「ああ。老いですよ」


「いや。そうかもだけど」


「そんなの病院でも治りませんから」


「じゃあ、どうやって相談を解決したのよ?」


「話を聴いてあげただけですよ?」


「え!? 何よそれ?」


「ああ。これはそういう相談なんですよ」


「はい?」


「解決できない悩みなんていくらでもありますからね」


「じゃあ、孫や政治の悩みも」


「ええ。聞くだけです」


「そ、そんなことで……」


 ……で、でもご隠居は満足して帰って行ったわ。


「あ、これ、相談料です」


「金貨10枚!? 10万コズンも!?」


「ははは。貰いすぎだって言ったんですけどね。どうしても貰って欲しいみたいです」


 相談料の相場は1万コズンなんだけどな。


「また来るって言ってましたからね。あ、親身になって話を聞くだけですから、ナナハさんでもできると思いますよ」


 いや、無理無理。

 とりとめのない話をずっと笑顔で聴いて上げられる自信がないわ。

 イルエマって本当にすごいわね。


「じゃあ、半分はギルドが貰うわね」


 ああ、こんなことで5万コズンも儲けていいのかしら?


「あは! このギルドは本当に良心的ですよね! 貰いすぎてて怖いくらいです」


 それはこっちのセリフよ!


 数日後。

 王城から魔法壁修復の依頼が来た。


 初めての依頼だ。

 今までは女神の光輝が受けていた依頼よね。

 どうしてうちに来たのかしら?


 まぁ、どっちにしろ受けるしかないわよね。

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