第12話 夜食

 夜道に車を走らせていた。


 何かが『ドスン』とぶつかった。かなり衝撃をうけて車のフロントが揺れる。


 「ヤバい、やっちゃったか!」


 あわてて車外に飛び出し、青白い月の灯りで車の走ったあたりを見回した。


 車からすこし離れた所、古い街路塔の片隅に何かが蹲っていた。


 痩せてうす汚れた、もうすでに動かないもの。野良猫のようだった・・・・・


 人でなかったことに、何かほっとしてしまった。

 

 一応周りを確認する。誰も目撃者がいないようだ。急いで車に乗り込み、逃げ出すように急発進した。


『猫で よかったぁ・・・・・』


 安堵。そして不安と後悔に、胸がムカつくようだ。頭を強く振って、いやな思いを振り払った。


 自宅への道を飛ばす。


 急な残業で遅くなってしまった。21時までに帰る約束だった。もう23時、気持ちが焦る。


 近道になる狭いわき道を、急ぐ気持ちが駆け抜けていく。そんな帰り道の出来事であった。


 見慣れた自宅が目に飛び込む。駐車場に車を突っ込んだ。フロントを確認してみたが、特に傷はないようだ。


 傷はなかったが・・・・・ちいさな血の痕が月に光った。


 呼吸を整えドアを開く。いつもの優しい笑顔が迎える。


 怒ったことなど見たことがない、妻のやさしい笑顔が、今夜のイヤな出来事を吹き飛ばしてくれた。


 風呂上がりの火照る体、湯滴をふきながら、妻にやさしく声をかけた。


 「今夜のご飯は何?」


 返事はなかった・・・・・


 テーブルの上の白い皿の上、ちいさな肉の塊が、わたしをじっと待っていた・・・・・

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