第7話 サキュバス

「いやー! リク様! クビが、クビが!」


 ミアが叫んでいる。

 あら、見に来てたんだね。


 ミアの叫びによると、どうやらオレの身体はクビと体が切り離されている。

 まずいまずい、死んでしまう。

 

【クビよ! 元に戻れ!】


 シュルシュルとクビが体の方へ飛んでいき、ピタッとくっついた。


 うわー、完全に昔の感覚だと全くよけれないんだな。


「いやあ、死ぬとこだった」

「いや……何でクビが飛んで死なないんだ!」


 ヘルガは眼を丸くして驚いていたが、さて、何て説明したらいいんだ?


「身体が丈夫なんだ」


 これでいいかな。


「そんなわけないだろ、お前のクビは豆腐よりも柔らかかったぞ!」


 ヘルガは不気味がっている。


「そうか……幻術か」


 ヘルガは自分で言った答えに納得している。

 なんだか納得しているし、乗っておこう。


「うんうん、幻術幻術」

「ハハハハハ!

 尻尾を出したな、リク・ハヤマ!

 幻術などの無属性魔法は魔族しか使えないのだ!」

「え、そうなの?」


 チラッとミアを見る。

 頼む、サポートしてくれ。


 ミアは喜んで任せてって感じでウインクしてくれた。

 た、頼むぞ!

 オレは魔族じゃないって、説明してくれよ!


 ミアがコホン、と咳をしてから説明を始めた。


「ええ。神の力を借り、癒しを司る【神聖魔法】。

 火、水、土、風4大精霊等、精霊の力を借りる【精霊魔法】。

 人間はこの二つを用いますね。

 そして、魔族は、神聖魔法が使えない代わりに【無属性魔法】を使います。

 【古代魔法】とも言いますが、神や精霊の加護がないため習得が難しいと言われていますね。

 人間の寿命では収めることが難しいため、幻術などの【無属性魔法】を使えるものは魔族と言い切って間違いないでしょう」


 ミアは自分の知る限りの知識を披露してご機嫌の様子だ。

 はい、ご説明ありがとうございました。


「あ」


 ミアはやっと気づいてくれたようだ。

 ミアの知識によって、オレは魔族で間違いないと太鼓判が押されたことに。


「違う、違います! リク様は魔族なんかじゃありません!」


 いや、無理じゃない?

 ミアの説明でみーんなオレのこと魔族だって思ってるよ?


「ククク、やはり魔族か。

 相手にとって不足はないな」


 ヘルガが飛び掛かってくる。


「覚悟しろ、リク・ハヤマー!」


 クソ、弱くなったオレには普通に回避が無理だ。

 こうなったら、【治れ】と言ったら、治り、【死ね】と言ったら死ぬ力を使うしかない。


 後ろに飛べって言ったら、飛ぶか?

 【オレよ、後ろに飛べ!】


 オレは後ろに飛ぶと、ヘルガと距離を取った。

 ふう、これで能力の使い方は良いみたいだな。


 ヘルガはさらに距離を詰めて突撃してくる。


【自己バク転!】ついでに【ヘルガの腹部に弱衝撃!】


 ヘルガは剣の達人と呼ばれる域にいるのだろうが、ヘルガが斬りかかるよりオレが頭を動かすほうが速い。


「ガハっ!」


 回避して小ダメージを与えることに成功した。


「あの攻撃を何事もなく回避するのか!」

「身のこなしがあり得ない!」

「しかもヘルガさん、ダメージを受けている?

 攻撃しているところが一度も見えない!」


 騎士たちが騒いでいる。よしよし。


「ク、いつ攻撃をしたんだ。まったく素振りも見えない。……まさか、魔法の類いか?」


 何だろうね。

 オレにはわからないな。

 しかし、回避して衝撃を与えるだけですごく疲れるな。

 

 その後、斬りかかられては回避して攻撃を数度繰り返した。

 満身創痍のヘルガ。

 ただし、オレも精神力を消費しまくっている。

 

「魔族に、負けるわけにはいかないんだ……

【紅魔炎竜破】!

 行くぞォオオオオオ!」


 ヘルガは剣に立ち上る炎をまとわせ、力を振り絞って突撃してくる。

 オレは、その突撃の真正面に立ち、そして、剣がオレの体に届く前に――


 【炎消化!】【ヘルガの両手に中衝撃!】

 【両手を剣が握れないほど痺れさせろ!】

 【ヘルガの両足に筋肉疲労をぶち込め!】

 

「ギァアアア!」


 衝撃に倒れこむヘルガ。


「くそ、魔族め……負けるわけにはいかないんだ……」


 悲壮な思いはオレにも伝わった。

 ただ、オレは勝たねばならない。


「ヘルガ、お前は良く戦った。

 降参しろ」


 ヘルガに近づくと、瞳が宝石のように赤く変化していることに気づいた。


「赤い瞳。

 ヘルガ、宝石みたいな瞳をしているんだな」

「その瞳……」


 ミアが驚いている。

 オレは、ヘルガを抱き起す。


「おい!

 もう剣も握れないはずだ。

 降参しろよ」


 ヘルガに諭すようにそう言った。


「フフ、リクと言ったな。

 貴様は強いよ。

 だが、私には……この唇があれば十分だ」

「早く降参してくれ。

 これ以上いたぶる趣味はない」

「……この手だけは、使いたくなかったんだけどな」


 ヘルガは、オレにしなだれかかってきた。

 オレは両手の使えないヘルガを支えた。


 見つめあう形になって……ヘルガはオレの唇を奪った。


 ちゅぱ。


 ……へ?


 ヘルガの赤い瞳が輝きを増す。


「な、何してるんですか!」


 ミアが飛び上がって叫ぶ。


 そんなことはお構いなしにヘルガはオレの唇をむさぼった。


 ヘルガの唇は柔らかい。

 わざと音を立てて扇情的に唇を重ねてくる。


 ヘルガの口づけと匂いに取り込まれたオレは自分からヘルガの唇を求め、ヘルガの体をまさぐった。


 抱きたい。

 クソ、この女を抱けるなら、オレはどうなっても!

 ……あれ?オレは何をしていたんだっけ。


 そうだ、試合をしていたんだ。

 でも――何のために……?


 全身に力が入らない。

 力を持っていかれてしまったようで、その場に倒れこんだ。


「フフ、ご馳走様」


 ヘルガは、満足そうに立ち上がる。

 腕を動かし、伸びをした。


 両腕は剣を握れない状態にしたはずだ。

 それに、なぜ、立ち上がれる? 両足には疲労がたまっているはずなのに……。

 

「……サキュバス」


 ミアは、ヘルガを見てそうつぶやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る