第12話 英雄



ゴッ!キーーン!ドガッ!キキン!


「す、すげぇ。あの男何者だ…?まるで吸血鬼の行動を読み切ってるような動き、、、」


「クソクソクソクソ!何故だ!何故当たらん!!」


魔法を使えないレイブンとの闘いなら画角に渡り合える!!普通の吸血鬼の個体より少し体術に秀でているだけだ。

実戦で剣を振り回すのは難しいがこちとら何回もこの場面に出くわしてるんだ。


ブォン!


「さっきから空振りばかりだなぁ!」


「貴様も、先ほどから傷一つつけられていないぞ!!」


片腕は回復魔法が使えなくなったため止血程度しかできていない。このチャンスを逃すわけにはいかない!!


ブォン!


今だ!!このまま心臓に…!


ガシンッ!!


「阿呆が!こんな剣へし折ってやる!」


ボゴッッッ!!


ベッドロックの拳は鋼より硬く、皮膚が分厚い。何十の矢が刺さっても威力は健在であった。


「ドァッッ?!」


「地獄に堕ちやがれ、糞吸血鬼!!」


「さっきまで死に損ないだった奴が、、、

図に乗るなぁぁぁ!!」


バシュッ!!


「ガァァァッ!、、俺としたことが…!2度もこんな奴らの挑発に乗るとは…!」


もう腕も失っており、腹部には剣が刺さっている。顔もレッドロックの本気の殴打により崩れていた。レイブンは人間への憎悪を燃やすばかりだった。


「このような下劣な種は滅亡させるべきだ。魔王様のお考えこそが全て、今こそ私の命を魔王様に献上する時。」


この言葉…!まずい!!


「ベッドロックさん!今です!トドメを…!!!」


「おうッ!」


剣を振り下ろし、再び殴打をしようとした時にはすでに遅く、、、、


ボォォォォォォウ!!!!



レイブンの周りにはデビルベアのような黒い瘴気が出てきていた。


最悪だ…、レイブンが『千日紅ゼーレ・トレード』を使いやがった…!


※千日紅…魔王軍の幹部のみが使ういわば最終手段であり、自分の命を引き換えに、強大な力を得る魔法。魔力ではなく自分の命を燃料にする為、自分が死ぬまで終わることはない。


そして遂にその時がやってきてしまった。



「スキルが切れた?!なんでこんなときに…!!」


「おい、少年。こいつを止める方法わかるか?」


「レイブンは自分の命を代償にこの国とガルタナ王国を滅ぼそうとしています。アイツを殺すか、国が滅ぶまでは動き続ける。最早アイツは会話をすることすらできなくなりました」


「シュー…グア゛ア゛ア゛ア゛」


ここまでか…


「まだ諦めるのは早いぞ、少年。応援が来るまで持ち堪えよう。考えるのはそこからだ。」


俺はレイブンを倒すのに7時間を費やした。

その間に負けたのは16回。勝ったのは周回した回数分だから両手で収まるほど。もちろん周回中も何回も負けた。

リリース日から今まで熱が冷めたことは無かった。この転生は運命だと思った。

だったら“最後”まで燃やし続けなきゃな、

俺に火を付けたゲームを一生賭けてクリアしてみせる。



「……ベッドロックさん、協力してください」


「おうよ!!死ぬなよ、少年。いや若き英雄よ!!」


「グアァァァァァッッッ!!!」











–3分後–




「やっべ、次喰らったら死ぬわ。けど自然と怖くねぇな。こんな奴の一撃喰らったら即死だし、、最後にお前のような勇敢な奴に出会えて俺はよかった。子供や奥さんもいなくてよかった。なんか自分で言ってて悲しくなった」




「弱音を垂れるのはそこら辺にしてください。はぁ…はぁ…最後までバケモンだなアイツ。ベッドロックさん、、、たてますよね。」


「仮にも先輩だからな…!よっと…」







「レオン様!!!」


ヘルム…?!


「なんでここに…!ゲートが閉じる前にガルタナ王国に逃げろ!!」


「嫌です、レオン様の命令でもそれはできません。今私だけ逃げたら遠くに行きそうな感じがします。」


「いかねぇよ、アイツぶっ倒したら帰るぞ」


「いいなぁ、俺も家に待ってる人がいりゃあそれだけ燃えられるのに…」


レイブンの千日紅は魔法を使えない代わりに身体能力が桁外れになる。一瞬でも油断したら体が貫かれるだろう。

最初に戦う幹部だから初見殺しとも言える


「ヘルムは極力近づくな。危ないと思ったらすぐに戻れよ」


「はい!」 


ドンッ!


ベッドロックの進撃で戦いは再開した。両者一歩も引かずお互い時間の問題だった。


「俺たちも追撃だ!!」


キーーン!ガリガリガリッ



「ガァァァァッ!グルァ!!!」


レイブンは唸りながらもS級冒険者とそれに近い強さを持つ2人、計3人を相手にする。

その眼には敵のみが映っており、執念が彼を燃やしていた。




長い…!1回1回の攻撃が効いているとは思えないほど強靭タフで反撃も重い!!


「少年!そろそろマジで足が言うこと聞かねぇ!同時に叩き込むぞ!」


重戦車と呼ばれたベッドロックの丸太のように太い足は震えていた。

常人なら既に気を失っているであろう、、、


「ヘルム、俺とベッドロックさんが襲いかかって足止めをする。その間に首を斬るんだ。」


「わ、わかりました!」


「もし、それでも倒せなかったらゲートに入り、遠くまで逃げろ」


「先ほども言いましたが、私の命はレオン様に助けてもらったものです。最期までそばにおつかえします」


なおさら死ねないじゃないか…最初は善意で助けた女の子がこんなに成長するとは思わなかったな。


「悪いな、弱気になってた。絶対今度こそトドメを刺すぞ」


「話は終わったか?んじゃ、行きますかぁ!!」

 

ゴキッゴキゴキッ


凝り固まった首を鳴らし、重い腰を上げるようにゆっくりと進み始めた。


「うぉぉぉぉぉ!死ねやバケモン!!!」


レイブンと殴り合い、睨み合う。

そしてそれに次いでレオンもフリーズの剣を振るう。


「こっからは根性勝負です…!ヘルムが叩き込むまで止めなければ!」



最後にヘルムが助走をつけて血に濡れた籠手をしっかりと手にはめて標的を定める。

そして、、走り出す。


「いけぇ!嬢ちゃん!!!」


「ヘルム…!」


「グァァァ、グガァァァァァァァ!!」


ドゴッ!ドガッ!


「おごっ、、離すかよ…!お前は俺と死ね!!」


ベッドロックは手を組み合いレイブンを逃がさないようにする。何度もはらわたに拳を撃ち込まれながらも。


遂に決着の瞬間が来る。



「フッッッ!」


大きなジャンプをして勢いを殺さずに首を斬る。それは、先のラザノフ戦の時のレオンのように。



が、頭と胴体が別れる瞬間、レイブンはヘルムの体に向かい、肥大した拳で攻撃を、、、


「ヘルム!!!避けろ!!!」


グサッ!!!ポタッポタッ、









レイブンの拳は“ベッドロックの腹”を貫いていた。



「ベッドロックさん…?!」


それと同時にヘルムは更にもう片方の手で完全に首を斬り取る。


レイブンは立ったままその場で息絶えた。

腹から拳を抜かずに最後の最後で1人の命を奪おうとしたのだ。


ゴボッ、ゴバァッ…


ベッドロックは血を吐き、意識が朦朧としていた。


「ったく、俺の人生もう少し豊かにしてくれよ、神様よぉ…」


最後の力を振り絞って腕を抜く、確かに腹には大穴が空いていた。


「ヘルム!今すぐ回復魔法を使える人を!帝国で1番の医者を!」


「いいんだ!もう助からねぇよ、、お前との共闘楽しかったぜ。今までで1番心踊った」


作中ではベッドロックは帝国で冒険者を50歳近くまで続けて、70歳で老衰で死亡する。

妻を持たず、子を持たずであったが、周りには自分のことを師として慕ってくれていた者たちがいた。S級に最も在位した男として、帝国で最も愛された漢として語り継がれていった




「あぁ、少年が世界を救う英雄なら俺は英雄を救った“英雄”にでもなるかな」


「なりますよ…!絶対ッ…」


「名前は…?」


「レオン、レオン=グラーヴ=シドラです」


「レオンか、お前だったら魔王を倒せる。冒険者の仕事なんて無くしてやれ。俺だってなりたくてなったわけじゃねぇのさ。…あぁ眠いな、潔く逝くとしよう。あばよ…!」


レオンは小さく数回頷き、ベッドロックの死を見届けた。



ベッドロックは35歳、本来生きられるであろう歳の半分で2人の前でゆっくりと息を引き取った。






こうして、レイブン率いる魔王軍との戦争は終結した。約1000人いた兵は減り、死亡者273名、怪我人402人を出した。














–魔王城–



「レイブンさんがやられたんすか!?俺あの先輩結構好きだったのに…」


「油断したのね、そうでもしないとあの男を倒せるわけないもの」


「油断などあやつがするわけない、拙者の好敵手だったあやつが……!」


「レイブンの幹部としての席は空白にする。」


リヴァルスは部下を駒としか見ていないはずだった。だが、幹部は違った。

魔王軍がこの惑星で世界征服をし始めてから今までの約500年間一度もかけたことの無い幹部の席。それがたかだか1、2世紀しか生きられない魔物以外の種族に負けたのである。

魔王は静かに席を外し、自室へと帰る。









「絶対…!絶対俺が魔王を倒しますから!……魔王を…」




「レイブンよ、そこで見ていてくれ。最後に笑うのは魔王軍だ。ご苦労だったな。……憎き人間とその他の種族を全て…」








「「殺してやる」」









1章完結















––––––––––––––––––––––––––

1章完結!!1章の終わりは元々こうする予定でした、、かなり悲しい結末ではありますが

2章では少しずつ幸せで明るいエピソードや

○○sideと言ったサイドストーリーも組み込んでみようと思いますので許してください(懇願)


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