第10話 無限の兵


魔王軍侵攻から早くも1時間が経過した。

帝国と王国はすでに疲労困憊の状態。

一瞬の油断が命取りの為、かなりの集中力を使っていた。

そんな中、違和感に気づき始めた者がいた。



「おいおい!!さっきから兵が減ってなくねぇか!?俺だけで100体は倒したはずだぞ!」


オーガや、※デビルベア、※サイクロプスの兵が元いた数と変化せず、いやむしろ増えているのだ。


※デビルベア…黒い瘴気しょうきを纏った元は熊だったもの。より攻撃力も高まり、凶暴になる。災害指数9。


※サイクロプス…単眼でオーガと同じく棍棒を振り回す魔物だがオーガよりも一回り大きい。災害指数8。


この違和感に気づいたのはベッドロックだけではなく、他のS級冒険者2人も気づいていた。そしてこの男も…





「ヘルム、この場はお前に任せる。俺は敵が出てくるあの森に行く。このまま行くといつか全滅するだろう。」


「ですが!霧の森は濃霧で包まれて方角を見失います!私もついていきます!」


「お前にはユドルがいるだろ、いくら強力な魔法があるからって敵の本拠地に乗り込むような危ないことはさせるわけにはいかない。ユドル、もしヘルムが怪我したら回復してやってくれ。」


「ワ、ワカリマシタ」


「レオン様、、必ず帰ってきてくださいね」


「あぁ、任せろ」


初めは5000体だと思っていたが、、あの森の中にあとどれだけの兵がいるのか確かめなければならないな…それに親玉がある可能性考えられる。急いでゲートをもう1度潜らなければ!!






–レオンがゲートを潜る5分前、帝国側–


「皆さん!私は霧の森に突入して相手のバスを討ち取ってきます!その間、どうにか耐えてください!」


冒険者と騎士はすでに限界状態に達していた。S級冒険者2人も不在となると帝国側はかなりの戦力低下になる。


「ぐっ!左腕が疼く!俺の体の中の魔力が暴走するかもしれん!だが、俺は誰も死なせん!!」


そして意味のわからない言葉を羅列し始める男1人に戦場は託された。









–霧の森–


「久しぶりに内部に入ったけれど、、魔物の姿が全く見えない…?入るまではあんなにたくさんいたのに…」


「どうしたんですか?お嬢さん。迷子でしょうか」


ザザッ!!


神童、フローズは声がする方向へと剣を向けた。“反射的”に体が動いたのだ。

その先にいるまだ見えない“敵”に初めて恐怖を抱いていた。


「そこにいるのは誰!!」


「ハハハッ人間は好戦的な生き物だな。弱い者ほどよく吠えるとはこのことだ。」


「敵、、で間違い無いのね。」


「まぁそんな興奮するでない」


ゾクッ!!


先程まで目の前にうっすら見えていた影が見えなくなり、気付いたら背後に移動していた。


「どうやら、他の雑魚とは違ってそこそこ実力はあるようだな。まぁお前のようなやつは数え切れないぐらい殺めてきたが」


「『魔力衝天』!!『絶氷土凍パーマフロスト』!!!」


ビキビキビキッ!!


「私に勝負を仕掛けるとは、死に急ぐようなものだぞ。まぁいい、魔王軍幹部である私が丁重に葬ってやろう。」













–20分後–




「ふぅ、大体ルート覚えててよかった。そろそろ中心地のはず…」


それにしてももっと魔物が内部に多くいると思っていたのに、親玉が何かの魔法で召喚しているのか?


「うぐっ、、がぁぁっ、」ドサッ


「フローズ!?」


片腕が斬られている…!


「逃げ…て、バケモノ…」


化け物…?やはり途轍もなく強い奴がいたのか。でもS級であり、作中でも最後の方はS級に最も近い女と称されたフローズがここまでやられるとなると……


「ん?また客か?それにしてもさっきの奴は手応えがなかったな。良くてもラザノフと互角か…魔王様のお考えだから仕方ない。どうせだからこの機会に2つの国を滅ぼすのもいいだろう。」


「智将、レイブン=アフタージ!!」


ピクっ「なぜその名を貴様が知っている。まさか前の一件貴様の仕業か…?」


魔王軍の中で最高の頭脳を持つ男、レイブン。

魔王に次ぐ『巓創五弁アンモビウム』の1人。

魔物の召喚に長けており、災害指数20の魔物をポンポンと出す正に化け物。

ちなみに、俺はコイツを倒すのに15回コンテニューをして計7時間を費やしたぜ。



「まぁいい、け※ケルベロス。」


※ケルベロス…レイブンのお供。3つの頭を持ち、忠犬で主人の言う事は必ず遂行する。

災害指数は32でS級冒険者と互角に渡り合える強さ。


「ウ゛グルルルル」ドンッ!!



喉を鳴らして襲いかかってくる


もちろんコイツも初見で相手したらかなり危険だ。ケルベロスはより強い相手に従うと言う習性がある。

もろに突進を喰らうと有り得ないくらいの衝撃を喰らうから注意。

頭が3つあるからと言って遠くにあるものは見えなくなる、それに濃い霧の中だともってのほかだ。





「グオ゛オ゛オ゛!!」


こうして見失ったところを!!


ボフッ!


「ケルベロスは防御力も高い。そんな取って拾った様な剣で倒そうとするなんて人間は知能も足りないのだな。」


この煽り耐性の高い言葉…!久しぶりにムカついてきた!!

まぁ、相手はこちらが何も策がないと思っているのだろう。

待ってろ、そのムカつく顔をへし折ってやらぁ!!!












「ガオ゛オ゛ルルルル」


霧の森に周りの空気がビリビリとする様な猛獣の雄叫びが響く。咥えていた男を吐き捨てた後に……



「結果は見えていたな。もう終わりにするとしよう。ケルベロス、森の外へ出て“その2人の冒険者”の様に葬れ。」


ザスッザスッザスッ


「もういいぞ、“ジロウ”。反撃開始と行こう。」


「…何をした」


「うへぇ…ジロウ、ヨダレかけすぎだろ…」


「クゥーン…」


「何をしたぁっ!!!」


レイブンはこの日初めて声を荒げた。

ケルベロスはより強い者に従う習性がある。

つまりはレオンのことを“主人であるレイブンよりも強い”と認識したのである。

その事実を目の当たりにしての怒声だったのだ。



「なにって、剣を強化してひたすら殴ってただけだ」


「何を抜かしている、、?それで私よりも強いと?ケルベロスが認識したと言うのか?」


「おう、どーせお前は殺気を出してこいつをビビらせて従わせてただけだろ?俺は目の前に死を置いてやったんだ。その後優しくしたらコロッと落ちた。これこそ飴と鞭だな」


門と森は案外近く走って4、5分ほどで着く。

それに中心部に行くのに俺なら2分で十分だ。

なのにゲートを潜ってからこの時間は長すぎるだろう。

森の中に俺の攻撃が通じない奴がいることを想定して、道中で“120体”の魔物を倒して一気にLevel上げをしていた。最初のレイブンの前で見せた斬撃は半分程度の力だったと言うわけだ。



『ステータス』



レオン=グラーヴ=シドラ  Level 70


【攻】240(+25)  【防】142(+15)


【速】270(+20)  【魔】1(+0)


【知】2(+0)  【体】1000(+10)


経験値:0pt


【称号】転生者、生粋のモブ、戦闘狂


【スキル】『真・攻撃力上昇』(攻撃力を50%UPする)『超・防御力上昇』(防御力を10%UPする)『極・素早さ上昇』『体力増強』(体力が2倍になる)





森に入る前に全てのスキルを使った。

持続時間は約10分。再度使うためには10分のクールタイムが必要だ。

そして3分をジロウに使ったからレイブンを7分で倒さないと勝ち目はなくなる。



「アメトムチ…?下等種族如きが、、魔物を従って良い訳ないだろう!!!!」


ビリビリビリビリ


この殺気を感じるだけで失神する者も多くいるだろう。俺もこの殺気を前にして進む勇気はない。


「キャウーーーーン!」


「抱きつくなって!重っ?!」


殺気にビビったジロウが俺に突進してくる。

本気ではないから痛くはないが……


「…人間、私を本気にさせたんだ。どうせこの戦いでこの戦争全体の勝敗も決まる。ラザノフを倒したのもお前だろう。」


「うん」


こいつには隠す必要もないしな、いつかバレることだったし。


「来い、人間よ。その小さい脳を使って私をどう倒すか見せてみろ」



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