魂結び

鳥尾巻

絵馬

 飲み会帰りの深夜、縁結びで有名な神社の近くをぶらぶら歩いていて絵馬を拾った。願い事は書かれておらず、表には長い黒髪の綺麗な若い女性が写真のように描かれていた。

 翌日、社務所に届けると、若い巫女が少し不思議そうに受け取って丁寧にお礼を言った。


 僕はその晩から不思議な夢を見るようになった。絵馬に描かれていたあの綺麗な女性が寝ている僕の枕元にやってきて、夜の散歩に誘う。


『拾ってくれてありがとう』


 はにかみながら礼を言う彼女は清楚で可愛らしく、目が覚めてからも本当に本人がお礼に来ないかと思ったものだ。彼女は絵なのだから、現実にいるはずがないのに。


 僕の願望かもしれない夢は毎晩続いた。最初はぎこちなかった会話も次第にスムーズになり、夜毎に僕らは親密になる。手を繋ぎ、腕を絡め、彼女の体を抱き締める。

 夢の中だというのに、感触はリアルで胸が高鳴る。唇に触れ、滑らかな質感の肌を辿り、どこまでも優しく僕を包み込む彼女に溺れた。


『ずっと一緒にいたい』


 そう言われて現実にはいない彼女に恋焦がれ、僕の日常が狂っていく。もしかしたら絵のモデルになった女性がいるかもしれないなんて妄想に取り憑かれる。

 いたとしても僕に興味を持ってくれるかどうかも分からないのに、手掛かりを求めてあの神社に向かった。


 社務所に行くと、あの時落とし物を受け取った巫女が対応してくれた。僕の質問に対して答えることもなく、ただ「ついてきてください」とだけ告げる。


 絵馬のある掛所に着くと、巫女は1枚の絵馬を選んだ。ああ、彼女だ。絵姿を見ただけで喜びに溢れる僕とは裏腹に、巫女は複雑そうな表情で説明した。

 それは若くして亡くなった未婚者を死者の世界に送り出す為に伴侶と共に描く絵馬なのだそうだ。通常は生者を描くことはない。


「あなたは花婿に選ばれたのですね」


 見れば彼女の隣に描かれていたのは、幸福そうな僕の姿だった。

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魂結び 鳥尾巻 @toriokan

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