黄泉の境界

最時

第1話 妄想

 カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップで今夜中に作品を投稿しなくてはならないのだが良いアイデアが思い浮かばない。

 何でも規定文字数まで書けば良いのだが、何人もと同じような作品を書いてもなと変なプライドのような物があり悩む。


 午前0時をまわっている。明日は朝から仕事だ。

 もう諦めて寝ようかと考えたが、目が覚めてしまって眠れない。

 少し散歩をしてみることにした。

 

 3月10日。例年なら朝晩は寒さを感じるものだが今年は暖かい。

 散歩は快適だ。

 四月初中旬の気温だそうだ。

 暖かい風に春の匂いを感じた。

 気持ちが良い。

 最近までの冷たく乾いた空気に奪われるのではなく、暖かく湿った空気に包まれている感じ。

 月には薄雲がかかっている。

 天気予報通り朝は雨だな。


 何も変わらない住宅地なのだが、深夜の散歩は自然を感じる。

 大げさにい言えば地球を感じる。

 この星で暮らしているのだと。

 いろいろな物が静かになって自然の存在が強くなる。

 あまり賑やかなところは得意ではないが、毎日こういう時間があると思うとここだって良いところじゃないかと思えた。


 近所の神社に着いた。

 木々に囲まれて、より自然を強く感じる。

 わずかな照明は視界を狭くして、森林に入ったかのような錯覚を感じる。

 ここまで来ると今度は偉大さを感じて少々萎縮してしまう。

 自分の存在なんてどうでも良いんだと。


「こんな時間にどうされた」

 背後から声がして驚いて振り向く。袴を着た老人がいた。神主さんだろう。

「ちょっと散歩で」

「散歩は良いが、時間と場所が悪い」

「すみません。夜中に立ち入るのはいけませんでしたか」

「ここは黄泉との境界。あやかしが強くなる丑三つ時が近い」

「・・・」

「散歩をしなくてはならない理由があるのか」

「小説を書かないといけないのですが何も思い浮かばなくて」

「小説家なのか」

「いえ。趣味です」

「なら帰った方が良い。書けなくても命まで取られることはないだろ」

「いのち?」

「あやかしに魅入られるとそうなることがある。いっそう命を奪われた方がましかも知れないぞ」

「あやかしですか」

「そうだ。お前のようなのが来るから私もおちおち寝ていられないのだよ。結界を破ってしまうのだからあやかしよりたちが悪い」

「すみません」

 良く意味がわからなかったがとりあえず謝った方が良い気がした。

「意図してやっているわけではないのだから、これ以上は責めんよ」

「はい」

「早く帰ることだ」

「はい。おやすみなさい」

 神主は手を上げて奥へと行った。

 

 家について布団に入る。

 今のは夢か。妄想か。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黄泉の境界 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

筋トーク

★3 現代ドラマ 完結済 1話