冬と鍋と贈り物

リト

第1話

冬の冷気が容赦なく体を襲う。天気予報曰く、今夜遅くから雪が降るそうだ。あまりの寒さに肩を縮ませて手荷物を片手に彼女の待つ家に急ぐ。


「ただいま帰りました」


外の空気を極力入れないように少しだけドアを開けて滑り込むように中に入る。私の声が聞こえたのか、リビングからパタパタと足音がする。


「おかえりなさい涼真さん。外寒かったですよね。今日のご飯はお鍋ですよ」


彼女は私の恋人の鳴海さん。鳴海さんとは3年前からお付き合いしていて、1年ほど前から同棲を始めた。でも正直、まだこの生活に慣れていない。仕事を終えて家に帰ったら最愛の人が出迎えてくれるだなんて幸せすぎる。


「鍋ですか、良いですね。それじゃあ先に手を洗ってきますね」


私が洗面所からリビングに行くと、すでに鳴海さんはこたつに入ってテレビを観ていた。私もすぐ隣に座る。


「お待たせしました」

「全然待ってませんよ。さぁ食べましょ食べましょ」


いただきますと手を合わせて言ってから鳴海さんはお皿に具をよそい始める。私も同じように手を合わせて言ってから箸で具を入れていく。お互いがよそい終わったのを見計らって食べ始める。


「やっぱり寒い日に食べる鍋は美味しいですね」

「そうですね。涼真さんはお酒飲みますか?」 「......いえ、今日はやめておきます。明日も仕事がありますし、鳴海さんに渡したいものもありますから」

「私に渡したいもの、ですか?」

「ええ。そろそろ同棲して1年でしょう?記念にこれをプレゼントしようと思いまして」


鳴海さんに見えない位置に隠しておいた紙袋からラッピングされた箱を取り出して、それを彼女に手渡す。


「開けてもいいですか?」

「もちろんですよ。鳴海さんへのプレゼントですから。勿論、いやじゃなければですが」


鳴海さんは私の杞憂の呟きは聞こえていないのかリボンを丁寧にほどいていく。私はその様子を固唾を飲みながら見守った。


「これは、イヤリングですか?」

「はい。鳴海さんに似合うと思ったので」


これを着けている鳴海さんを想像して、思わず値札を見ずにそのまま購入したのは内緒だ。


じっとイヤリングを見つめていた彼女は何かを思いついたのか、私にそれを渡してくる。


「どうしました?もしかしたてお気に召しませんでしたか?」

「いやいや、そうじゃないですよ。涼真さんに着けてもらおうと思って」


彼女のその言葉にほっと胸を撫でおろす。イヤリングを渡された時は本当に焦った。今回の贈り物には自信があったから、気に入ってもらえなかったならどうしようかと思った。


「そういうことですか。分かりました、良いですよ」


渡されたイヤリングを鳴海さんの柔肌を傷つけないように慎重に耳に着ける。 今回のイヤリングはピアス穴が開いていないものを選んだ。


「そういえば涼真さん。イアリングの贈り物にはいつも一緒にいたいという意味があるらしいですけど、知ってました?」

「......さあ、どうでしょうね」


冬の冷気はちょうどいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

冬と鍋と贈り物 リト @rito18

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る