第一章 例えてみる
第一章には、主に「比喩法」に属する諸道具をまとめました。直喩、隠喩、換喩、提喩などは、他の様々な技法の基礎になっています(これも隠喩)。
【直喩(シミリ)】
概説:「〇〇は▲▲のようだ」といったように、明示的にあるものを別のものに例える技法。より抽象的でイメージしにくい事象〇〇を、より具体的な事象▲▲で例えることが多い。
用例:「彼女は花のように綺麗だ」「此奴など我にとっては塵に等しい」「燃えるような恋がしたい」
付記:もっとも基本的な比喩では無いでしょうか。
【隠喩(メタファー)】
概説:「〇〇は▲▲である」といったように、明示せずに別のものに例える技法。より抽象的でイメージしにくい事象〇〇を、より具体的な事象▲▲で例えることが多い。
用例:「何事も基礎が大切だ」「受験を戦う戦士たち」「教育こそ日本の礎だ」「芸術は爆発だ!」
付記:似ている、という直感に働きかける比喩で、「比喩の女王」と呼ばれることもあります。
【共感覚法(シネスシージア)】
概説:感覚を表す言葉を用いた言語表現の技法で、直喩の一種(とされることもある)。「鼻腔を『くすぐる』香り」といったものがあたる。「美しい声」など慣用的に使われているものも多い。
用例:「透き通るような歌声(視覚)」「騒々しい見た目(聴覚)」「それは何とも香しい話だな(嗅覚)」「直視できないほどの痛々しさ(触覚)」「ほろ苦い経験(味覚)」
付記:これを五感を使って表現できないだろうか、という経路で考えれば、人によってさまざまな表現が浮かんできそうな面白い技法です。
【活喩と擬人法(パーソニフィケーション)】
概説:隠喩の一つで、意思のない主体を意思ある主体に見立てて表現する技法。特に人間に見立てる技法は擬人法とも呼ぶ。言葉は人間の被造物なので、用例としては人になぞるえるものに偏っている。
用例:「この風、少し泣いているわ」「諸帝国の産声」「人類の悪癖」「この会社の銃は素直かつ個性がない」「唸れっ、直列4気筒!(後述する換喩との合わせ技)」
付記:擬人法のWikipediaには、ローマ帝国の修辞学者が、「神々を天上から下ろし、死者を蘇らせ、町や国に声を与える」と擬人法の力を述べたという話が載っていますね。この原典は『弁論家の教育』という題で日本語訳されています。
【換喩(メトニミー)】
概説:〇〇を示す際に、それと関連のある、ある意味でズレた言葉を使って表現する技法。「手を貸してください」というのがそれにあたる。
用例:「教鞭をとる」「ユニフォームを脱ぐ」「マンキューを学ぶ」「碧眼に侍の歴史など語れまい」「太陽系第三惑星人」
付記:空間や時間、表現をずらすと発想しやすい技法です。〇〇の横には何があるでしょうか、将来〇〇の前には何をするでしょうか、〇〇はより具体的に(抽象的に)言うと何だと言えるでしょうか。より詳細な分類として、「転喩(メタレプシス)」があります(用例中だと、ユニフォームを脱ぐ、があたる)。
【提喩(シネクドキ)】
概説:〇〇を示す際に、類と種の関係を利用する技法です。それを含むより大きな分類や、〇〇に含まれるより小さな分類(あるいは個別のそれ)を用いるもので、ティラノサウルスを巨大恐竜と言ったり、リバーシ一般を指してオセロという商品名で読んだりするのがそれにあたります。
用例:「今日は花見に行こうか」「このタッパーは密閉性がよくないな」「今度ごはんでも食べに行こう」
付記:タッパーの例などは、何が提喩なのかわからない人も多いのではないでしょうか(実は商品名)。検索技術としても知られている技法で、マルクスについて知るために、哲学者(包摂される概念)や資本論(著作)を調べる、といったふうにも使えます。
【宇喩】
概説:文字を利用して〇〇を表す技法で、その形状を利用するものから、構成要素間の関係を利用したものまである。
用例:「川の字になって寝る」「人という字は、二人が支え合ってできているので、人は支え合わないと生きていけないことを表している」
付記:あんまり活用する機会はないかもしれませんが、慣用的に用いられる表現はそれなりに見られます。
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