リプレイ

岡田 悠

リプレイ

 生まれてはじめて、オレは幽霊を見た。


幽霊が、高確率で出ると噂の廃病院への向かう一本道の入り口。


自宅からコンビニへ向かうよく使う道でだ。


最悪だ。


オレには、霊感がない。


なのに、見てしまった。


草木も眠る丑三つ時なんかに、出歩いたせいか?


それとも、あそこで幽霊に話しかけている女のせいか?


「こんなところに、一人で出たら変な輩にからまれますよ?」


あきらかな幽霊に絡みにいく奴なんて、いる訳ねぇだろ。


「ほら、あの人とか。こっち見てるし」


あの女、感じわりぃ。


聞えよがしだろ。


女と幽霊は、こっちを見た。


「深夜に徘徊。あやしい」


「怪しいくねぇわ!」


「わぁっ!しゃべった!」


「しゃべるだろう普通!」


「?怪しいですよね?」


女と幽霊は、ヤバいものみたいにオレを見る。


「幽霊としゃべっているお前の方がよっぽど……」


「?彼女が見えるんですか?」


「彼女?そこまでは……ただ、なんか、ぼんやり……」


「ああ!なんとな~くですか?」


「ああ」


「それなら、あなたもご一緒にいかがですか?」


「?」


「イヤイヤイヤイヤイヤイヤ!!!」


「あらっ?彼と一緒じゃダメですか?」


「ムリムリムリムリ!!!!!」


「こっちこそ、薄気味わりぃ」


「薄気味悪い?」


「ああ、そうだろう」


「どうしてですか?」


女は、オレの方に向かってきた。


女の肩越しに見える幽霊は、なぜか、廃病院に向かっていく。


「おい!あいつ、逃げようとしてるぞ」


「いいんですよ」


「なんで?」


「本命は、貴方だから」


「本命?」


「幽霊は、心残りの瞬間、まぁ大抵は死の瞬間ですが、繰り返すんです。何度も、何度も」


「繰り返す?」


「ええ、そうです。貴方もですよ」


「オレ?」


「ええ。何回ここで繰り返すんですか?犯人さん」


「犯人?」


「ええ、この暗がりで、女性を何人も刺殺し、汚した。殺人犯さん」


「オレが?」


「ええ。自覚、いえ、覚えてなんですか?」


「そんなわけ」


「忘れちゃいましたか?自分の最期?」


オレの目の前に映像が浮かぶ。


オレは、黒づくめの格好をし、フードを目深にかぶった。


手には、血の付いたナイフ。


足元には、女の死体。


当然のように、オレは女の上にのかっろうとした瞬間、病院へ続く道から、何かがオレに向かってきた。


オレは、その何かから逃げるため、無我夢中で、走った。


うら寂しい国道で、オレはトラックにはねられた。


「思い出した?わたしは、貴方を退治するために来たの。観念なさい」


女は、黒い霧のようなものを俺に向けて放った。


オレは、逃げた。


また、国道に向かって。


そして。


「うぁぁぁぁぁ……轢いちまったか?」


「おい?どうした?」


「いやぁ……人が急に飛び出してきて」


「おい、ここって、廃病院の」


「ああ、直ぐそこに」


「やべぇ、車出せ!」


「でも」


「馬鹿!お前が轢いたのは幽霊だ!」


「えっ!」


「廃病院で亡くなった幽霊が、この国道のこの信号機の下にたって、繰り返し飛び込むんだ」


オレを轢いた乗用車は、エンジン音を響かせ闇に消えていった。


オレは、痛む体を起こした。


「痛いですか?」


「当たり前だ」


「貴方が手にかけた女性はもっと」


「そんなの……」


「見たんでしょう?」


女は、ニタリと笑った。


「わたしの仕事は、完了しました」


「?」


「被害者女性の幽霊を成仏させること。無自覚に車に飛び込む貴方に、思い出せること」


「思いださせてなんに……」


「ここに縛るんです」


「縛る?」


「貴方は、永遠にここで繰り返すんです。自分の最期と体の痛みを」


オレは女を見た。


「そして、ここで後悔も反省もできない、ただの思念になるのです」


「それって……地縛霊?」


「ほら」


女が国道をあがってくるライトを指さした。


オレは、オレの意志に関係なく、信号機の下に歩いていく。


「何度でも、飛び込みなさい」


「いやだぁ!」


「貴方の意志は関係ない」


「やめてくれ」


「貴方が刺した人たちもそういわなかった?」


ライトが近づいてくる。


オレは踏ん張った。


でも、


オレの手を引く幽霊と背中を押す幽霊がいた。


何体も……


タスケテクレ。


「自分たちを殺した貴方に、報復しているの。当然の権利でしょ?」


オレは、トラックにはねられ宙を舞った。


「さぁ、もう一度」





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